妖怪研究
井上円了

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)候《そうろう》

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 妖怪研究は余が数年来従事せるところなるが、近ごろ応用心理学を講述するに当たり、あわせて妖怪の解釈を下し、ときどき実験をも施しけるに、事実の参考を要するものあれば、館外員諸君よりも事実の御報道にあずかりたく、左に妖怪の性質と種類とを掲記いたし候《そうろう》。
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 洋の東西を論ぜず、世の古今を問わず、宇宙物心の諸象中、普通の道理をもって解釈すべからざるものあり。これを妖怪といい、あるいは不思議と称す。その妖怪、不思議とするものにまた、あまたの種類ありし。現今、俗間に存するもの幾種あるを知らずといえども、しばらくこれを大別して二大種となす。すなわち、その第一種は内界より生ずるもの、第二種は外界に現ずるもの、これなり。しかしてまた、内界より生ずるものに二種ありて、他人の媒介を経てことさらに行うものと、自己の身心の上に自然に発するものの別あり。ゆえに、余は妖怪の種類を分かちて、左の三種となさんとす。
 第一種、すなわち外界に現ずるもの
   幽霊、狐狸《こり》、犬神、天狗《てんぐ》、鬼火、妖星、その他諸外界の妖怪
 第二種、すなわち他人の媒介によりて行うもの
   巫覡《ふげき》、神おろし、人相見、墨色《すみいろ》、卜筮《ぼくぜい》、予言、祈祷《きとう》、察心、催眠、その他諸幻術
 第三種、すなわち自己の身心の上に発するもの
   夢、夜行、神知、偶合、再生、俗説、癲狂《てんきょう》、その他諸精神病
 このうち第一種の狐狸、犬神等は、第三種にも属すべし。
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 以上の種類に関する事実御報道にあずかりたく、追ってその解釈は「講義録」中に掲載するか、あるいは特別に館外員講義相設け、講述いたすべく候。

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出典 『哲学館講義録』第一期第三年級第五号、明治二三(一八九〇)年二月一八日、一頁。
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底本:「井上円了 妖怪学全集 第6巻」柏書房
   2001(平成13)年6月5日第1刷発行
底本の親本:「哲学館講義録 第一期第三年級第五号」
   1890(明治23)年2月18日

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