この新しき性格は、認識の立場反省の立場においては、本來無きものがあとより附加はつたのであつて、主體の自己表現としてのそれ本來の性格はそのことによつて何の動搖をも來さぬのである。それ故象徴性は、この場合、本來一定の性格を有するものがその性格を保存しつつしかも同時に他者を代表し、自己の内在性を維持するものがしかも同時に超越性を獲得することを意味する。それ故表象の上においても、他者を表現するものは、主體を表現するものを基礎とし材料とし模範とすることによつてはじめて成立つ。他者は勢ひ擬人的に表象されるのである。吾々はもとより體驗において直接に他者の言葉を聽く。しかもその言葉の理解は自己の言葉人間の言葉によつて行はれる外はない。この世の現實的生の續く限り擬人性は認識の、從つて認識を契機として含むあらゆる生の姿の、免かれ難き運命である。しかしながらこの代價を拂ふことによつて、吾々は自己の限界を超越してあらゆる存在の祕密にも參與するを許されるのである。
一五
吾々は今ここに客觀的實在世界における存在の基本的形相即ち所謂範疇について立入つた論述を展開すべきではない。それは吾々の任
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