べくもない。
過去が他者性の領域に對應するに對し、「將來」は自己性と形相との領域に對應する。過去が受動的であるのに反し將來は能動的である。一は働きかけられるもの他は働きかけるものである。
過去より存在を受取つた主體は、かく與へられたるものを、將來として前面に顯はになつた自己によつて形作りつつ、自己實現自己表現をなさうとする。時は過去より現在を經て將來への方向を取つて進む。
過去も將來も現在の共通の地盤の上に立ち、否むしろ同一現在同一自己の中に全く包括され、それの内部的分化乃至組織としてのみ成立つ。兩者は等しくともに同じ現在同じ自己の有り方であり、ただ異なつた有り方としてのみ區別されるに過ぎぬ。かくしてここに現在を介して兩者の間に交互的聯關が成立する。先づ過去は、存在の供給者として形作らるべき質料として客體の他者性の領域として、それにおいて自己を實現する主體の動作を制約し制限する。又そのことによつて將來に影響を及ぼす。客體が實在するものの世界との聯關を保つは過去によつてであり、過去の根源は實在する他者又は主體である。中にも、認識によつて維持固定される實在的他者との聯關は從つて客觀的自
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