ニしてのみ成立つゆゑ、――實在的他者は主體にとつて實在性及び生の内容の、從つてあらゆる存在の、維持者乃至供給者であるといはねばならぬ。しかしながら他面において、自然的生は實在者と實在者との直接的なる從つて外面的なる接觸乃至衝突であるゆゑ、主體にとつてそれは他者よりの壓迫侵害であり、又存在の喪失である。自然的生を生きる限り主體は存在を獲得しつつしかも同時に喪失する。ここでは生ずるは滅ぶるであり來るは去るである。
 自然的生のこの絶え間なき流動推移においてこそ時及び時間性の最も基本的の姿即ち自然的時間乃至自然的時間性は成立つのである。「現在」は主體の自己主張に基づき生の充實・存在の所有を意味するものとして中心に位しそこよりして時の全體を包括する。之に反して「過去」は生の壞滅・存在の喪失・非存在への沒入である。しかしてこれら兩者を成立たしめる主體と他者との接觸交渉に對應するものが「將來」である。將來は絶えず流れ去る現在絶えず無くなり行く存在を補給しつつ維持する役目を演ずると同時に、又それの過去への絶え間なき移り行きの原因ともなる。將に來らんとするものはいつも來つて現在となりつつ、しかも他方そ
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