です。」
「ふうむ。」
 とじいさんは、すみれの言菓を聞いて考え込みました。
「それから、誰も見てくれる人がなくても、わたしは一生懸命に、出来る限り美しく咲きたいの。どんな山の中でも、谷間でも、力一パイに咲き続けて、それからわたし枯れたいの。それだけがわたしの生きている務めです。」
 すみれは静かにそう語りました。だまって聞いていた音吉じいさんは
「ああ、なんというお前は利口な花なんだろう。そうだ、わしも、町へ行くのはやめにしよう。」
 じいさんは町へ行くのをやめて了いました。そしてすみれと一所に、すみ切った空を流れて行く綿のような雲を眺めました。



底本:「定本北條民雄全集 上」創元ライブラリ、東京創元社
   1996(平成8)年9月20日初版
入力:もりみつじゅんじ
校正:松永正敏
2002年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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