女「思うまいと思ってもそうは行くまいじゃないか」
岩「そうでございますが、其の替りには貴方|幾日《いくか》何十日お宅を明けて居らっしゃっても宜しいので、貴方のは気癪《きじゃく》でございますよ、それを癒《なお》さなければならないと旦那様が仰しゃって、私を附けて此処に幾日《いっか》何十日入らっしゃっても何とも御意遊ばさないじゃアありませんか、それで貴方どんな我儘を仰しゃっても、柳に受けて入らっしゃる、貴方はお仕合《しあわせ》じゃアありませんか、他家《よそ》には疳癪《かんしゃく》を起して、随分御新造様方を手込《てごみ》になさるお宅《うち》さえ有りますじゃアございませんか」
女「それは、御自分様に悪い事があるから、私へも優しく遊ばさなければお義理が悪いだろう」
岩「だけれども男は仕方がありませんよ」
女「それは男の働きで、偶《たま》に芸妓《げいしゃ》を買うか、お楽みに外妾《かこいめ》をなさるとも、何とも云やアしないけれども、旦那様ばかりは余りと思うのは、現在私の血を分けた妹《いもと》じゃアないか」
岩「それだから斯うやって長く居ても、何とも仰しゃらない、今年一杯居てもお小言は出ませんよ」
女「それは早く帰ればお邪魔になるから、たんと居ろと仰しゃるので」
岩「貴方はそうお思召《ぼしめ》すからいけません」
二十四
岩「貴方木暮武太夫へ菊五郎《きくごろう》が湯治に来て居ります、家内を連れて来て居ります、松助《まつすけ》も連れて居《お》るそうです」
女「私は俳優《やくしゃ》は嫌い」
岩「落語家《はなしか》も来て居ります」
女「落語家は饒舌《おしゃべり》で嫌い」
岩「それでは貴方琴をお調べなさいな、どうせ借物《かりもの》で悪うございますが、何か一つお浚《さら》い遊ばせ」
女「私は厭だよ……芝居と云えば何《なん》じゃアないか、前橋へ東京の芝居が来て居るって」
岩「左様《さよう》で、慥《たし》か左團次《さだんじ》が来たそうで」
女「左團次と云えば、お隣の旦那様は左團次に能く似て居らっしゃるねえ」
岩「左様《そう》でございますよ、好男子《いいおとこ》で人柄で、そうしてお隣のお方ぐらい本当に御親切なお方はございません………そしてアノ若い気の利いた車を引く人、あんな身分に似合わぬ親切な人は有りません、まア一生懸命に汗を掻いて貴方のお癪を押してねえ、それにもう一人の方《かた
前へ
次へ
全141ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング