バンはございません……貴方が其処《そこ》に持って居らっしゃる」
幸「おゝ、そうか……神薬《しんやく》がある、早く水を」
というので薬を飲ませると好《いゝ》塩梅に薬も通って下《さが》る様子
「反らしちゃアいけない……」
由「あ痛《いて》え石頭を打付《ぶッつ》けて……旦那ナニを……咒《まじな》いでげすから貴方の下帯を外して貸して下さい下帯で釣りを掛けると好《い》いので、私のは越中でいけませんが、貴君《あなた》のは絹でげしょう」
幸「失礼な、僕の下帯で奥様方を……」
由「だッて御病気の時は、そんなことを云ったって仕方がありません、咒いでげすから、失礼だって構いません」
幸「じゃアまだ締めないのがあるからあれを」
由「締めないのではいけません、締めたのが宜しいので」
幸「だって此処で脱《と》れるものか」
とやがて新しい絹の下帯を持って来て釣りをかけ漸くに治まりも着きました。
女「なに好《よ》いよ、もう宜しい、岩《いわ》や治まったから心配せんで宜しいよ」
岩「貴方どんなに心配したか知れません、お隣のお客様お三方がお出で下すって、結構なお薬を戴き治まりが着いたのでございます、確《しっ》かり遊ばせ」
女「宜《よ》いよ、あゝ……有難うございます、皆さんもう宜しゅうござります」
由「恐れ入りました、お癪は治まると後《あと》はケロ/\致します……中々お強いお癪で」
峰「私の拇指《おやゆび》はこんなになりました……随分強いお癪で」
幸「お薬はまだ私の方にありますから、これは此処へ置いて参ります、お構いなくおあがりなすって」
岩「誠に有難う存じます、お若衆様《わかいしゅさま》に一と通りならんお世話になりまして恐れ入ります……貴方能くお礼を仰しゃいな」
女「有難うございます」
幸「左様にお礼では痛み入ります」
と是から自分の座敷へ帰りまして、
幸「強《ひど》いお癪だねえ」
由「強いたって癪の起るような身体つきであるよ、痩せぎすで、歯を噛《く》い〆めて居る処は人情本にあるようでげす、好《よ》い女でげすな、伊香保で運動して居る奥様方や御新造さん方を見るに一番別嬪はお隣の御新造で、彼《あ》のくれえ品が宜くって、あのくれえ身体つきの好いのはありません、外のは随分お形装《なり》は結構で、出るたんびに変り、でこ/\の姿で居ても感心しない、起《た》って歩く処を見ると、丈《せい》がづんづら低かったり、
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