し》か旧《もと》猿若町の芸者で小瀧と云って、中頃前橋の藤本へ来て、芸者に出て居た小瀧さんだアね」
高「な何んですと……まア呆れますね、怪しからん人違いで」
市「いや人違えじゃアねえ、見知り人があるだ……さア此方《こちら》へ皆《みん》なお這入んなすって下せえ」
「御免」
 と云いながら這入って来ましたのは橋本幸三郎で、お瀧も松五郎も見て恟《びっく》り致し、顔の色を変えました。

        七十三

 橋本幸三郎の跡から続いて這入って来ましたのは岡村由兵衞と云う、前々《ぜん/″\》橋本の取巻で来ました男で、皆是が見知《みしり》と成って這入って来たのを見ると、お瀧も松五郎も面体《めんてい》土気色に成り、最早|遁《のが》れる路《みち》なく、ぶる/\手先が慄え出しました。
市「さ旦那さま此方《こちら》へお這入んなすって下せえまし」
幸「はい親方|此間《こないだ》ア……やい斯うなったらもうお前方は知らねえと云う訳には往《ゆ》くめえ」
市「どうせ駄目な話だから白状して仕舞った方が宜かろうぜ、もう遁れる路はないから逃途《にげど》はない」
幸「やい盗人《ぬすびと》峯松、其方《そち》は何うも大《ふてえ》え[#「大《ふてえ》え」はママ]奴だなア、七年以前に此の伊香保へ湯治に来た時、渋川の達磨茶屋で、私《わっち》ア江戸ッ子でござえます、江戸のお客を乗せれば此様《こん》な嬉しい事はありませんて……ね此の由さんが鞄を忘れたら態々《わざ/\》持って来て見せやアがったから、私《わし》も正道《しょうとう》の人間だと思って目を掛けて、次の間へ寐《ね》かす位にまで為《し》てやったのに、何んだヤイ悪党、鼻の下へ附髭《つけひげ》か何だか知らねえが生《はや》かして、洋服などを着て東京《とうけい》近い此の伊香保へ来て居るとは、本当に呆れちまったな」
由「これは驚きやしたな……おい/\もういけないよ/\、酷《ひど》いじゃアありませんか、お隣座敷に在《い》らしったお藤さまと、お岩さまてえお附の女中まで引張り出して、私達が先へ四万へ往ってると、後《あと》からお連れ申すって取持がった事を云って、折田の山ン中まで連れ出して、お二人を殺したと思っても、お附のお岩さんは殺されたろうが、お藤さまは神が附いてますよ、谷へ落《おっ》こちたって、ちゃんとお助け申す人があって御無事で在らっしゃるんだ」
市「イヤ何うだ、彼《あ》の
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