へえー成程お世話ア致しましょうか」
女「お世話たって私のようなものですから、誰《たれ》も貰ってくれる人がありませんもの……貴方は本当に奥さんがありませんか」
治「本当にありません、真実でげす、本当にないから無いと申上げましたので」
女「貴方はまアお調子が好過《よす》ぎますよ……ま一杯お酌を致しましょう……何んですね……私の様なものだってサ、本当に貴方のような結構なお身の上はありませんね」
治「なに余り結構じゃアございません」
女「巧く云っていらっしゃるよ」
と治平の手首を握るを振払い、
治「ヘヽエ御冗談なすっちゃアいけません」
女「好《い》いじゃアありませんか、貴方本当にお独身《ひとかた》ですか」
治「へえ……」
女「私は当家へ参りましてから、貴方の在《い》らっしゃるお座敷ばっかり見て居りましたことを御存じですか」
治「ヘヽ何かどうも、飲酔《たべよ》いまして誠にどうも」
女「飲酔ったっても私は嘘は云いませんが、貴方は本当にお罪だと思いますよ」
治「其様《そん》なことを仰しゃると、私《わたくし》は田舎者ですから本当に為《し》ますよ」
女「嘘にされると却って腹が立ちますが、私のようなものでも貴方本当に貰って下さると仰しゃるなら、直《すぐ》に兄の方へ話しを致しますが、本当ですか」
治「奥さん本当だって……貴方はそりゃア真実に仰しゃるんですか」
女「私に嘘はありませんが、貴方《あんた》が真実なら何うか確《しっ》かとした貴方のお心の証拠が見とうございます」
治「心の証拠と仰しゃっても別に何もありません、と云って、まさか髪を剪《き》るの指を切るのと云う訳にも往《ゆ》きませんが」
女「女の口から此の様な事を云い出すは能々《よく/\》の事ですからよう」
治「ようたって……私《わたくし》にも何うして好《い》いか分りません」
女「何うしてって、貴方《あんた》のお心の証拠をさ」
治「いえ決して私《わたくし》は嘘を吐きません、神かけて嘘は云いません、若《も》しお疑りなさるなら、書付でも何んでも証拠を上げます、へえ」
女「本当に貴方《あんた》然《そ》うなんですか」
と少ししなだれ掛る途端にガラリと障子を開け、スーッと立った男は鬚《ひげ》の生えて居る、眼のギョロリとした、鼻の高い、年紀《としごろ》三十四五にも成りましょうか、旅行《たび》洋服で、一方の手には蝙蝠傘とステッキとを一緒に持ち、片
前へ
次へ
全141ページ中127ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング