、さアと云う訳になって、アヽ然《そ》うかてえば貴方《あんた》も泣かねえばなんねえ」
修「はてね、何う云う理由《わけ》で私《わし》が泣かなければならんか」
市「何う云う訳って……云えばなア老爺《じい》さま……訳は云えねえが置いて下すって無闇に剣術を教えて下せえまし……お前《めえ》も遠慮しちゃア駄目だから、旦那さまのお暇の時には一本|願《ねげ》えますって、宜《い》いか、私《わし》も筏乗で力業《ちからわざ》ア嗜《すき》だから時々来て一緒にやる事もあるから……旦那さま実に此の子ぐれえ感心な者はありませんよ、私イハア胸え一杯《いっぺえ》になりやしたが、貴方《あんた》も屹度泣くよ……それからアノ御隠居さまは相変らず御機嫌宜しゅうござえますかえ」
修「ウン藤か、ハヽヽ藤や、ちょっと此処へおいで、市四郎が来たから」
と云われてお藤は奥より出て参り、
藤「おやまア能く出ておいでだ、毎度尋ねておくれで誠に有難う」
市「はい御機嫌宜しゅう……何時もお若いね御器量の善《い》いてえものは違ったもんで、今日は貴方《あんた》の大嗜《だいすき》な人を連れて来ましたよ」
藤「妾《わたし》の大嗜な……兼吉《かねきち》という百姓かい」
市「あ、なに……さア貴方《あんた》此方《こっち》へお這入りなせえましよ」
幸「是は何うもお懐かしゅうございます…」
藤「おやまア…何うも……由兵衞さんも」
由「へえ、マ有難い事で、是まで貴方のお噂たら/″\でげすが、斯う云う処にいらっしゃろうとは些《ちっ》とも知りませんで、昨夜《ゆうべ》も今日も先刻《さきほど》までも貴方のお噂が漸々《よう/\》重なって、ポンと衝突《ぶッつ》かって此処でお目にかゝるなんてえのは誠に不思議でげすが、些ともお変りがありませんな」
市「へえ、なに是には種々《いろ/\》深い訳もありますけれども、其様《そん》な事は構わないで……昨日《きのう》図らず一緒になって、貴方《あなた》の話をしたら何うかお目にかゝりたいと仰しゃって、どうせ足利まで往らっしゃるから通り路の事ゆえ、私《わし》が御案内をしてお連れ申して来やした」
藤「さア何卒《どうぞ》此方《こちら》へ……あなた、何時もお話を致しますお方で」
修「ウン、成程伊香保で御懇命《ごこんめい》を蒙《こうむ》った……是は始めて御意得ます、予々《かね/″\》此の者からお噂ばかり聞いて居りますが、此者《これ》は私
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