だと思召して、田舎から東京《とうけい》へ連れて来て、少しばかり雇人《やといにん》のようにしてお使いなすって居らっしゃると、盗賊《とうぞく》が這入りまして斬殺《きりころ》され、未だに死骸が知れませんのでげすが、貴方もお掛合いてえ訳でございますか」
老「いや掛合と云う訳ではございませんが、少し調べんければならぬ事が有ると云うは、其の村上松五郎と申すものゝ事で」
由「へえ/\/\」
老「何卒《どうぞ》細かに仰せ聞けられて下さい、若《も》し隠し立をなさると何処までもお附き申して質《たゞ》さねばならん事があります」
由「へえ、これは恐れ入りましたなア旦那」

        六十二

幸「お前本当に困るじゃねえか、余計な事を云うからいけねえんだ……何卒《どうぞ》御勘弁なすって」
老「いや貴方が何も私《わし》に謝る訳はないが、ちょっとお姓名《なまえ》だけを承わって置きましょうか」
幸「へえ……」
老「いやさ御姓名《ごせいめい》を一寸《ちょっと》認《と》めて置きたいから」
幸「へえ……真平《まっぴら》御免なすって」
老「何も謝る事はありませんよ、御姓名だけを」
幸「へえ、何う云う何ですか掛合なれば仕方もありませんが、私《わたくし》も彼《あれ》を正道《しょうどう》な女と存じまして、お屋敷ものが零落《おちぶ》れて斯様に難儀をして居るとはお気の毒な事だ、あゝ不憫だと思いまして、多分の金子を出して彼の身請を致し、東京へ連帰って私の妾《てかけ》にして、橋場の別荘へ置きました処が、盗賊が這入りまして斬殺《きりころ》され、いまだに死骸が知れませんので、尤も其の筋へお届けには成って居りますが、お再調《さいしら》べに成りましても当人は助かって居りますか助かって居りませんか、其処は分りませんので、へえ」
老「ムヽー貴方は何と云うお姓名《なまえ》だ」
幸「えゝ私は橋本幸三郎と申します」
老「ムー橋本幸三郎」
 と手帳へ認《したゝ》め、
老「お宿所は」
幸「霊岸島河口町四十八番地で」
老「ウン……貴方は」
由「えゝ私《わたくし》……あの、ヘヽヽ私が何もソノ妾《てかけ》にしたと云う訳でも何でもないので、私は只此の旦那の家《うち》へ時々出這入って御用事を伺うだけの事でげすから、ヘヽヽ」
老「いや精《くわ》しい事を御存じだろうから、仰しゃらんなら私《わたくし》と一緒に同道していらっしゃい、御姓名ぐらい伺うのは
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