く掛合われた時には本当に驚きました」
幸「彼《あ》の時は怖かったな、彼の時に種々《いろ/\》災難の重なったのも詰りお母《っか》さんが止せと仰しゃったのを無理に出たから悪かったが、鈴木屋に働いていた彼のおりゅうには驚いた」
由「えゝ彼奴には喰ったね、ポロ/\涙を零《こぼ》して、えゝ何とか云いましたっけ、私は瀧川左京のお嬢さまでございますって身の上話を並べたから、此方《こっち》もホロリと来て、あゝお気の毒だって、貴方はお慈悲深《なさけぶか》いもんだから五十円で身の代《しろ》をくぎって、東京《とうけい》へ連れて来て権妻になすって、目を掛けておやんなすったが、実に怖いな、漸々《だん/″\》様子を聞けば芝居町の芸者で小瀧と云う奴だそうで」
幸「私《わし》が東京へ連れて来ると芝居を観《み》るのも厭だ、物見遊山は嫌いだ、外へ出るのは厭だと神妙らしく云ってたのは、本当に出嫌いのではなくって、実はお尋ねものゝ日向見《ひなたみ》お瀧と云う奴で、真実|温順《おとな》しいのではない、何処へも出て歩く事が出来ねえんだ」
由「亭主は村上何んとか……ウン松五郎てえ肩書の有る旅稼ぎだそうでげすが、得て湯場などには然う云う奴がありますね」

        六十一

幸「おい/\此処でうっかりお尋ねもんだなんて、彼奴《あいつ》の事ア喋られませんよ」
由「へえ…彼女《きゃつ》もあゝ云う目に遭ったのは罰《ばち》でげすね、だが橋場の御別荘へ押込の這入った時には私は驚いて腰が脱けちまいました、あゝ血が流れて居るのを見たが、実に何うも彼様《あん》な忌《いや》な心持はありませんね、何んとか云うお女中が其方《そっち》から這入っちゃアいけません、此方《こっち》へ往《ゆ》くと其処に泥坊が居りますよと云われた時にゃア私《わっち》アとっちたね、併《しか》しまア彼《あ》の女は天罰で賊に斬殺《きりころ》され、桟橋から投《ほう》り込まれたのでげすが、彼《あれ》も矢張《やっぱり》悪事の罰《ばち》だろうね」
幸「ウン彼奴《きゃつ》も窃盗《ぬすッとう》をする奴だが、お瀧も矢張《やっぱ》りお尋ねものの悪党だから殺されたって却って私《わし》は好《い》い気味ぐらいに思って居《お》るが、彼《あ》のお駒と云う小女は誠に可愛そうな事をしたね」
由「そう/\お母《っか》さんが来ておい/\泣いて居た時には、流石《さすが》の私《わっち》も気の毒に思い
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