わし》が困るから」
布「いえ、お祖父さん何卒《どうぞ》お暇を戴いて下さい、私は最う一日も居《お》られません、若《も》しお祖父さんが私を置いて往《ゆ》けば、明日《あした》にも彼家《あすこ》を駈出します」
佐「どうでも手前《てめえ》討つと決心したか、併《しか》し人を殺せば手前の身にもそれ丈《だけ》の処分が附くぞ」
布「いえ私は死んでも宜しゅうございます、彼奴等二人を仮令《たとえ》私が手をおろして討ちませんでも、捕《つかま》えてお上の手を借りましても思う存分に為《し》ませんでは腹が癒えませんから」
佐「ウム…宜し、お暇を願って遣ろう……あゝー能く仇を討つと云った」
 としめやかに話を為《し》て居るを隣座敷で聞きまして、岡村由兵衞が、
由「旦那え/\」
幸「何だ」
由「仇を討つてえますが何でしょう」
幸「講釈だろう」
由「ナアニ少《ちい》さい子が仇を討つてえと、何だか傍に居る老爺《じい》さんが能く討つと云ったてえましたぜ」
幸「ムヽもう討ったのか」
由「なに討ったとか討つとか云ってますが、此処でチョン/\始まっては大変で」
幸「まさか始まりゃアしめえ」
由「何でげしょう」
 と岡村由兵衞が怖々廊下へ立出で、そっと障子の破れから覗くと、六十有余歳の老人と十二三に成る小僧と二人にてのひそ/\話、幸三郎も覗き見て、
幸「はて変だな」
 と怪しみました。さて是から奧木佐十郎が茂木佐平次方へ参って、布卷吉の暇《いとま》を貰って、川蒸汽に乗りまして足利へ帰るのでございますが、此の汽船《ふね》へ再び橋本幸三郎が乗合せるのも妙な訳で、上州の川俣《かわまた》村と[#「川俣《かわまた》村と」は底本では「川俟《かわまた》村と」]云う処で筏乗の市四郎に会いますと云う、是れから敵《かたき》の手掛りが分ります。

        五十七

 野田の祗園祭でございまして、亀甲万の家《うち》へ奉公を致して居りまする布卷吉と云うは、今年十二歳ではありますが、至って温和《おとな》しい実体《じってい》ものでございます。祖父《そふ》奧木佐十郎が顔を出しに参りましたのを見ると、親の敵《かたき》が討ちたいからお暇《ひま》を戴いてくれと云うので、祖父《じい》が亀甲万の主人に面会致し、只管《ひたすら》暇をくれるようにと頼み、幾ら止めても肯《き》きません。亀甲万の御主人も親切なお方でございますから、懇々《こん/\》説諭を致
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