らいの温和《おとなし》い方を私は未だ見た事がありません、第一|信心者《しん/″\しゃ》でげす」
幸「ウン余り外へ出るのが嫌《きれ》えで、芝居は厭だ花見は厭だといって、宅《うち》に居て草双紙を見るのが宜《い》いてえんだ」
由「御自慢なせえ/\、実に彼《あ》の方は品が違いますねえ、私《わたくし》が参っても物数云わず、にっこりと笑われると胸がむか/\して来て、カアーと気が遠くなる位のものでげすが、一向にお化粧《しまい》もなさいませんが、何処ともなくお美しゅうございますなア、此の間の黄八丈はすっかりお似合なさいましたぜ」
幸「平素《ふだん》は木綿で宜《い》いなんて彼《あれ》は少し変って居るね」
由「変ってる処じゃアありません、彼様《あん》なものが上州四万村|辺《あたり》に居ようとは思いきやで、御運が悪くって御苦労なすって、あゝやって在《いら》っしゃるくらい御苦労の果《はて》だからさ、大概の権妻は朝寝が嗜《すき》で、第一|喰物選《くいものえら》みをして、あの着物を買いたいの、此処へ往って見たいとか劇場《しばい》へ往《い》きたいとか種々《いろ/\》云い出して、チン/\をするくらい無理なのはありませんよ、旦那が奥さんの処へ往って寝るのを権妻がチン/\をするくらい何う考えても無理なのはありません、旦那がお茶を習えとか活花を稽古|為《し》ろってえと忌《いや》アに捻《ひね》って仕舞い、女の癖に変なこうポツ/\毛の生えた羽織などを着ていけません、それに洋学などを習ったりすると変な気位《きぐらい》ばかり高くなって、外国の話なんぞを為ますが、僕などには些《ちっ》とも分りませんで面白くありませんが、彼《あ》のおりゅうさんなぞは柔和でね、何も彼《か》も心得てゝ女らしく在《いら》っしゃるのは、ありゃアちょっと出来ないて……」
犬「ワン/\」
由「シッ畜生……」
犬「ワン/\」
由「畜生/\」
幸「かめ/\……帰ったよ……トン/\/\、おさんや帰ったよ、トン/\/\」
さん「はい」
 と小声で返辞をして慄《ふる》えながら窃《そっ》と戸を開け、
さん「静かにして下さいましよ、盗賊《どろぼう》が這入りましたよ」
幸「えゝ……何処から這入った、締りは厳重にして置いたんだろう」
さん「あれ……貴方|其方《そっち》へ往っちゃアいけませんよ」
 と云われて慌てゝ由兵衞は柱へ頭をコツリ。
由「あ痛い何うも……私《
前へ 次へ
全141ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング