し入れてあります。下女が持って参ります。是から楊枝を遣い始めようとすると、ゴーンと云うのが上野の午刻《こゝのつ》だから今の十二時で何う云う訳か楊枝が四本あります、一本へ歯磨を附けまして歯の齦《もと》と表を磨き、一本の楊枝で下歯の表を磨き、又一本の楊枝で歯の裏を磨き、小さい楊枝が有りまして、これで歯の間々《あいだ/\》を掃除いたします。舌をこきますときは化物が赤児《あかんぼ》でも喰うような顔付を致しまして、すっかり溜飲を吐いてから嗽《うがい》を致しまして、顔を洗い、それから先ず着物を着替るので、其の永い事、それから神仏へ向いまして線香を上げまして一心に拝みは為《し》ませんが、神棚や仏壇に向ってごちゃ/\云いながら拝んで居ります中《うち》に、漸く下女が茶を入れて持って参りますから、これを飲んで居ると、ポーンと未刻《やつ》の鐘が響きますから、
権「お湯に往《い》こう」
と昔は種々《いろ/\》のものを持って往ったもので、小さい軽石が有りまして朴木炭《ほうのきずみ》、糠袋《ぬかぶくろ》の大きいのが一つ、小さいのが一つ、其の中に昔は鶯《うぐいす》の糞《ふん》、また烏瓜《からすうり》などを入れたものでございます。爪の間を掃除致すものを持って参り、下女に浴衣を抱えさせてお湯に這入りますのが尽《こと/″\》く長い。先ず悉皆《すっかり》洗い上げて、すうッと湯屋から出て家《うち》へ帰って来ますと、ポーンと鳴る、是が申刻《なゝつ》と云うので、それから
「さアお飯《まんま》を喰べようねえ」
と是から朝御膳に成るのでございます。お膳の上には種々な物が載って居ります。自分の嗜《すき》なものが小さい葢物《ふたもの》に這入ったり、一寸《ちょっと》片口に這入ったり小皿に入れたりして有りますが、碌なものはありません、お芋の煮たのや豆の煮たのやなにかを取交《とりま》ぜて有ります、総唐草の輪形の茶碗へ銀の股引を穿《は》いた箸を出して喰べようと致して、
権「あゝー痛いこと……ちょいとその丸薬を取っておくれ」
と丸薬を七粒|服《の》んでお膳に向い、
権「是じゃア喰べられやアしないよ、例《いつも》の処で何か見つくろって来ておくれ」
と喰いません。仕方がないから誂《あつら》えに往《い》くと間もなくお椀に塩焼とか照焼が来ます。
権「気に入らないよ、妾《わたし》はいやだよ、それより甘いものが嗜《すき》だから口取
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