れを渡ると直ぐ山田村、近道で其の小坂の処に庚申塚《こうしんづか》があります。そこまで来ると車を下《おろ》して、
峯「若衆《わかいしゅ》大きに御苦労だのう、骨が折れても急いで遣ってくんねえな、十時までに中の立場《たてば》まで往《い》こうじゃアねえか」
車夫「何しろ昨日《きのう》沢渡までの仕事で、甚《えら》くバアーテル[#「バアーテル」に傍点]から、女客《おんな》でも何うもとても挽けねえよ」
峯「挽けねえたってお前どうするんだ」
車夫「此処で若衆《わけえしゅ》暇ア貰いてえものだ」
峯「戯《ふざ》けちゃアいけねえじゃアねえか、此処まで来て、此処じゃア立場も無《ね》え、下沢渡へ別れ道の小口《こぐち》まで往《い》きねえな、彼処《あすこ》へ往《い》けば又一人や二人帰り車も居るだろうから、此処じゃア何うもしようがねえやな」
車「どうもしようがねえたって、挽けねえものア仕かたがねえ、今朝から渋川の達磨茶屋で疲れて寝て居たんだ、其処を帰《けえ》って又来たが、身体がバーテル[#「バーテル」に傍点]でどうも……」
峯「馬鹿にしちゃアいけねえ、そんなら何故中の条の木村屋で左様《そう》云わねえ、木村屋で挽けませんと云えば他の車を頼もうじゃアねえか、からかっちゃアいけねえぜ、東京者だって東京ばかりの車を挽くんじゃアねえ、此地《こけ》え来て渋川で一円に一升の仲間入をして居る峯松だ、大概《てえげえ》にしやアがれ、馬鹿にするな」
車「何だ峯松だか荒神松だか知んねえが、怖くもおっかなくもねえ、挽けねえんだ、何を云やアがる、撲《なぐ》るぜ」
峯「なに撲って見ろえ……」
岩「まア峯さんお待ちよ、私ア歩くよ……怪《け》しからんよ、こんなものに構っては損だからお止しよ」
峯「構うたって、そんなら中の条で云やア何うにでもなるに、人を馬鹿にしやアがって、女連だと思って脚元《あしもと》を見やアがって」
岩「まア/\好《よ》いよ、鞄を此方《こっち》へ下してね」
峯「挽けなけりゃアそうと早く云えば好《い》いに……」
岩「そんな事を云わずに、私が困るからよ……挽けなけりゃアさっさとお出で」
車「おゝ往《い》かねえで何うする」
峯「なに、生意気な事を云やアがる」
車「何が生意気だ」
峯「なに」
岩「お止しよ、峰さん/\」
 と云う中《うち》に彼《か》の車夫は折田《おりた》の方へガラ/″\/″\/″\と引返しましたが、道中に
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