文を貼って、アノお前も得心の上で証文は是れ/\で、金も五十円兄様に渡したから何んでもと申されますから、私も恟り致しまして、其様《そん》な事は出来ません身の上でございまして、老体の母もございますから、母に相談の上に致さんければなりませんと云って、十日のあいだに情を張りまして泣き明して居りました処が、此家《こゝ》の關善さんが日光からお帰りに宇都宮へお泊りで、段々様子をお聞きなすって、気の毒な事と御親切に五十円を貢《みつ》いで下すって、關善さんに連れられて参って、お手伝を致して居りますが、とても宿屋奉公では五十円と云うお金は返す事は出来ません、鈴木屋さんで人が足りないから御祝儀も貰えるし、そうしたが宜かろうと申されますが、關善さんと鈴木屋さんと両方で稼ぎを致しても五十円のお金では幾年此処に奉公をして居りましたら返せますか、承われば夏ばかり繁昌致しても、冬の中《うち》は遊んで居ると申しますから、中々お金の返しようもございません」
幸「それはどうも、で其の東京にお兄《あに》いさんが逃げてしまっても、お母様《っかさま》がお在《いで》なさるか、お母様はさぞお驚きで」
女「母はもう六十二になりまして、母はアノ恟りいたしまして身体も大分|悪《あし》くなりましたが、此方《こっち》より手紙を出しましても向《むこう》から参ることも出来ませんで、此の頃は兄が諸方の借財方に責められまして、僅《わず》かばかりの夜の物諸道具も取られまして、此の頃は煩《わずら》って」
由「へえ、どうもあるねえ、一度ね、私《わし》は伊豆《いず》の網代《あじろ》へ行ったことがある、其処に売られて来た芸妓《げいしゃ》は、矢張叔父さんに欺《だま》されて娼妓《じょろう》にされまして来たと云うので、涙を落しての話で有ったが、それはお気の毒な事だねえ、左様でげすか、お屋敷は何方《どちら》でございます」
女「屋敷の名前なぞは親共の耻になりますから、それだけは御免遊ばして」
幸「ハヽ、それじゃアお聞き申しますまい」
由「旦那、そんな遠慮をしてはいけません」
幸「それでも耻になると仰しゃるから」

        四十二

由「貴方、旦那が御親切だから貴方の身の上を心配して、お名前をお聞きなさるので、貴方は親の耻になると云うは御尤《ごもっとも》だけれども、何もこれは決して言いませんよ、誰が聞いても……私《わたし》は随分お饒舌《しゃべり
前へ 次へ
全141ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング