居る処へ踏み込んで遣りたいね」
治「じゃア斯う為《し》たら何うだろう、君は時々松五郎を家《うち》へ呼んで酒を飲み合うだろう、じゃア何うだえ、今夜は淋しくって夫婦差向いで酒を飲んでも面白くないが、東京の人の云う事は面白いから松さんを呼んで来なと云って、遅くまで飲んで、夜短《よみじ》かの時分だから泊ってお出《いで》な、是から帰るったって一人身の事だから、女郎買でも始めると宜くないと云って無理に止めてサ、貴方《あんた》が端の方へ寝て、中央《まんなか》へお瀧を寝かして、向うの端へ松五郎を寝かして、貴方が寝た振をして鼾《いびき》を掻いて居る、其の中《うち》にお瀧が中央に居るから、若《も》し情実《わけ》が有ればソレ夜中に向うの床の中へ這入るとか、男の方からお瀧の方へ足でも突込《つッこ》めば、貴方が跳起《はねお》きて両人《ふたり》をおさえ付け、実は斯ういう訳の有る事を知って居《お》るから汝《てめえ》を呼んだのだと云って、長熨斗《ながのし》を付けて呉れて遣る、己《おれ》も男だ、素《もと》より芸妓《げいしゃ》の浮気は知って居るから汝に呉れて遣ると云えば、銭入らずに事が済むから、然うしてあんなものは早く追出して仕舞って、何うかおくのさんを可愛がって上げなんし、宜くねえよ」
茂「誠に有難う」
治「然《しか》し僕が云ったと云ってはなりません」
茂「いや御親切誠に有難う」
 と真実な治平の言葉に感じて宅へ帰りました。

        五

 其の翌日は丁度所の休み日で、
茂「今日は松五郎を呼んで一|盃《ぱい》飲みたい」
 と手紙を以て松五郎を呼びに遣ると、早速まいりました。
茂「何ぞ旨い肴は無いか」
 と云うので是から三人で酒を飲み合って居る中《うち》に、茂之助が気を付けて見ると、何うも二人の様子が訝《おか》しい、気が付かずに居《お》れば然《そ》うでもないが、疑心を起して見ると、すること成すこと訝しく見えます。ちょいと見る眼遣《めづか》いの時に、眼の球が同じ横に往《ゆ》きながらも、松五郎の方《かた》を見る時は上の方《ほう》へ往くが、僕の方を見る時は、下眼《さがりめ》で、何んだか軽蔑して見るような眼つきだ、鰌《どじょう》の骨抜を皿へとりわけるにも、僕の方には玉子の掛らない処を探して、松五郎の方へばかり沢山玉子の掛った処が往くと、一々気になって来ます。斯う遣って僕にばかり盃を差すのは、僕に酒を
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