どうかお取付けになります様、誠に有難いことで、えゝ鈴木屋でございます」
由「今這入ったばかりで、まア仕様がない」
甲女「叶屋でございます」
幸「そう大勢|幾人《いくたり》も来たって仕様がない、困りますねえ」
甲女「叶屋で」
由「叶屋でも稻本《いなもと》でも角海老《かどえび》でも今日《こんにち》が初会《しょかい》だ、これから馴染が付いてから本価《ほんね》を吐《は》くから、まだ飯も食わねえ、湯へも這入らねえうち種々《いろ/\》の物を売りに来るのは困るねえ」
幸「私《わし》は話に聞いて居るが、料理屋のようなものがあるので、取付けにして貰おうというのだろうよ」
由「もし、また豆腐入の玉子焼なぞが出来るので……どうも旦那お茶代を其様《そんな》に遣らねえでもようございます、此処ですから」
幸「それでも出したものだから……おい姉《ねえ》さん」
女「ヒエー」
由「可笑しな返辞だねえ、面白い…もし旦那でも番頭さんでも呼んでおくれ、用があるから一寸《ちょっと》」
女「ヒエー」
由「早くして」
 という、やがて番頭がそれへ参りまして、
番「ヒエー」
幸「お前さん御亭主かえ」
番「手前は当家の番頭でござりやす」
幸「はア番頭さんか、当家は何というえ」
番「關善平と申しやす」
由「番頭さんの名は」
番頭「ヒエー與兵衞《よへえ》と申しやす」
由「成程關善の家に與兵衞ありというのは面白い」
番「左様でございます、皆様がそう仰しゃるので、旧来居りやすから」
由「ハヽヽ……これはいけません、洒落を云っても通じませぬ、皆様がそう仰しゃるなぞはこれは妙だ……これはお茶代で、これは雇人中《やといにんじゅう》へ」
番「えゝ有難うございます、主人《あるじ》が直ぐお礼に出まするで、有難いことで、ヒエ」
幸「何しろお前さん初めて来たので馴れませぬから、また後《あと》から連《つれ》も来るから宜しく頼みます」
番「ヒエ、明日《あす》から世帯《しょたい》をお持ちなさるのでございますか」
由「何処へ世帯を」
番「えゝ一週間《ひとまわり》なり二週間《ふたまわり》なりお席をおきまして、お座敷《つぼ》の内へ竈《へッつい》でも炭斗《すみとり》火鉢すべて取寄せまして、三週間《みまわり》もお在《いで》になれば、また賄《まかな》いの婆《ばゝあ》も置きまして、世帯をお持ちなさいますなら、炭|薪《たきゞ》米なぞも運びますから」
由「ハヽア
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