軒で、女郎《じょろう》が一人居りやんす」
由「閑静なものだね……やア勘定《かんじょ》は幾許《いくら》になるえ」
女「ヒエ、九十|銭《せね》若衆《わかいしゅ》が十二せねで、金一円二|銭《せね》になりやす」
由「申し旦那|銭々《せね/\》というのはどうも面白い……六十五せねの馬はこれかえ」
馬「はいはい」
由「コウ馬士《まご》さんどうだい、馬は暴《あ》れはせんかえ」
馬「えゝ起《た》ちもしねえが噛《く》いもしねえ」
由「起ったり噛われたりして耐《たま》るものか、大丈夫かえ」
馬「大丈夫《だえじょうぶ》で、なに牝馬《めんま》で、大概《たえげえ》往復《いきかえり》して居るから大丈夫で、ヘエ」
由「いゝかえ」
馬「さア其処《そけ》え足イ踏掛《ふんが》けちゃア馬の口が打裂《ぶっさ》けて仕舞う、踏台《ふみでえ》持って来てあげよう……尻をおッぺすぞ」
由「おッぺしちゃア危《あぶね》え、動《いご》くよ」
馬「動《いの》きやすよ活《い》きて居るから……さア貴方《あんた》確《しっか》りと、荷鞍《にぐら》へそう捉《つか》まると馬ア窮屈だから動きやすよ」
由「若衆いゝかえ大丈夫かえ、気を付けて」
馬「大丈夫《だえじょうぶ》で、此の道は馴れて居りやんすからね、もうハア一日には何返《なんかえ》りも往《い》くだからねえ、此の頃は馬ア眼《まなこ》を煩らって居るから、はっきり道が分らねえから静《しずか》にあるきやんす」
由「冗談じゃアねえ、盲目馬《めくらうま》では困るねえ」
馬「盲目でも歩くよ、此の道は一筋道だから心配はがんしねえで」
由「驚いたねえ、盲目馬の杖なし、大丈夫かねえ」
馬「大丈夫《だえじょうぶ》だが、只牛が来ると困るねえ」
由「おいおい牛が何処《どっ》から来るえ」
馬「なアに牛がねえ、米エ積んだり麁朶《そだ》ア積んだりして大概《たえげえ》信州から草津|沢渡《さわたり》あたりを引廻して、四万の方へ牽《ひ》いて行くだが、その牛が帰《けえ》って来る、牛を見ると馬てえものは馬鹿に怖がるで、崖へ駈込んだりしやす、たまげて此の間もお客さんを乗せたなりで前谷《まえだに》へ駈込みやアがった」
由「冗談云って、人間を乗せたなりで谷川へ駈込まれて耐《たま》るものか」
馬「なに貴方《あんた》、滅多にはねえ大丈夫《だえじょうぶ》だが、先月谷川へ客一人|打込《ぶちこ》んだが、あの客は何うしたか」
由「コウ冗談云っ
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