]「分らん奴であるぞ、罪と云うは今の事じゃ、二人を打落《ぶちおと》したのが罪じゃ」
市「己《おら》を先へ打《ぶ》つ奴の方が罪があると思いやんすが、どうだえ」
巡「分らん事を申すな、お前は布告を知らんなア」
市「へい知りません、私《わし》の方へ布告が廻った事もありやんすが、読めねえだ、手習《てなれえ》した事がねえから何だか分らねえから印形|捺《つ》いて段々廻すだ、時々聞きに来いなんど云うが、郡役所だって一里半もあるので、其処まで参るには商業《しょうべえ》を休まなければなんねえだから、聞きに往《い》く訳にはめえりませんよ」
巡「どうもはや分らぬ奴……参れ」
市「参《めえ》れませんよ」
巡「なぜ参らぬか」
市「なぜ参《めえ》らぬだって、貴方《あんた》私《わし》が悪くアねえのだに、先に打《ぶ》ちやした奴を先へ連れて往《ゆ》くがいゝのだ、私ばかり悪いからって連れて行くてえなア無理な話で」
巡「どう云う理由《わけ》で此の谷へ打込《ぶちこ》んだか、それを申せ」
市「はい打込んだってえ、私《わし》を打ったゞからよ」
巡「じゃが理由《わけ》なく貴様を打つという事もあるまい、貴様に悪い事があるから向うでも打擲したのだろうから隠さず云え」
市「隠すも何もねえ、此処な家《うち》へ来て芸妓《げいしゃ》が来《き》ねえって皿小鉢を投《ほう》って暴れるので、仕方がねえから、私《わし》用があって此家《こけ》え来て居りやんしたが、見兼て仲へ這入った処が、私《わし》胸倉ア捉《と》るから、仲人《ちゅうにん》だと云うのに聞入れず私を打ちに掛ったから、まご/\すると打たれるから引外《ひっぱず》したら蹌《よろ》けたので」
巡「また左様《そう》云う悪い者があったら手込《てごみ》に谷川へ打込む事はならぬ、すぐ派出も在《あ》るものじゃから訴えなければならんに、手込《てごめ》にする事はない、なぜ届け出《いで》んのじゃ」
市「だって此の谷を下りて、貴方《あんた》の方へ訴えて此処《こけ》え来る時分には逃げてしまうから、打たれ損にならねえ先に、貴方だって間に合いませんから、私《わし》は貴方の代りに打殴《ぶちなぐ》って、谷へ投り込んだので、早く云えば貴方の代りにしたので、大きに御苦労ぐれえ仰しゃっても宜かろうと思いやんす」
巡「えゝ、僕を愚弄致すか」
市「愚弄てえ何か」
巡「えゝ分らぬチュウものじゃ、まア参れよ」
市「参《まい
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