わり》いや一旦此の人に遣っちまったんだから取返すのは極りが悪いから、此の人に遣っちまおう、私は貧乏人で金が性《しょう》に合わねえんだ、授からねえんだろうから、此の人が店でも出す時の足《たし》にして下さえ、一旦此の人に授かった金だから、何うか遣っておくんねえ」
 主人「イエ/\どう致しまして、奪られたら戴きます、御気象は解りましたから、併し全く二重に金を私が戴く訳で」
 長「だがね、何うも……だからよ、貰って置くから宜《い》いじゃアねえか……誠にどうも旦那ア、極りが悪《わる》いけれど、私《わっち》も貧乏|世帯《じょてえ》を張ってやすから此の金はお貰《も》れえ申しやしょう」
 主人「それは誠に有難い事で、就《つ》きましては貴方のような御侠客のお方と御懇意に致していますれば、此方《こちら》の曲った心も直ろうかと存じますので、押附けた事を願って誠に恐入りますが、今日《こんにち》から親類になって下さるように、私《わたくし》は兄弟と云う者がない身の上でございますゆえ、今年からお供《そなえ》の取遣《とりや》りを致します、明日《みょうにち》あたり餅搗《もちつ》きを致しますから、直《すぐ》にお供をお届け申しますが、何《ど》うぞ幾久しく御交際を願います」
 長「冗談いっちゃアいけやせん、私《わっち》のような貧乏人が親類になろうもんなら、番ごと借りにばかり往って仕ようがねえ」
 主人「イエ/\何うか願います、それに又此の文七は親も兄弟もないもので、私《わたくし》どもへ奉公に参った翌年に親父がなくなりましたが、実に正道潔白《しょうとうけっぱく》な人間ですが、如何《いか》にも弱い方《ほう》で店でも出して遣りたいが、然《しか》るべき後見人が無ければ出して遣れんと思っておりましたが、貴方のようなお方が後見になって下されば私は直《すぐ》に暖簾《のれん》を分けて遣るつもりで、命の親という縁もございますから、親兄弟の無いものゆえ、此者《これ》を貴方の子にして遣って下さいまし、文七も願いな」
 文「何うか貴方、然《そ》うでもして下さいませんと、私《わたくし》は貴方に御恩返しの仕方がございません、不束《ふつつか》でございますが、私を貴方の子にして下されば、どんなにでも御恩返しに御孝行を尽します」
 長「ヘエ、どうも旦那ア妙ですナ、へんてこですな」
 主人「イエも何う致しまして、親子兄弟固めの献酬《さかずき
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