ので胸がむかついて耐《たま》りませんから、堀浚《ほりさら》[#「浚」は底本では「凌」]いの泥に積っている雪の上へ吐《と》しました。十分|嘔《は》いて胸が癒《なお》ったからせっせと新銭座の宅へ帰ってまいりましたので、女房は恟《びっく》りいたしました。
内儀「おや大層お早く、たま/\いらっしゃいましたから今晩はお遅かろうと思いましたが、石川様は御機嫌宜しゅうございましたか」
七「はい、お役替で」
内儀「お役替、おゝ/\それはお目出度いところへ入らっしゃいました」
七「どうもね、その、お役替で」
内儀「何うなすったの」
七「むゝゝ……じゃ」
内儀「懐を捜していらっしゃいますが、何うかお落し物ですか」
七「え……これは無い、これは無い」
内儀「何うなすったの」
七「何うしたって(金を受取り押戴き懐へ入れる真似をして考えている)」
内儀「あなた何をなすって入らっしゃいます」
七「お屋敷を駈出して、虎ノ門の堀端で屈《こゞ》んだ時に懐から辷《すべ》ったに違いない……ちょいと往って来るよ」
 とまた駈出しました。
内儀「傘も差さずに貴方何処へいらっしゃいます」
 七兵衞はどん/″\駈けてまいり、こゝらで嘔いたろう、と思いましたから、堀浚《ほりさら》[#「浚」は底本では「凌」]いの泥が山盛りになって居ります所を捜すと宜《よ》い塩梅《あんばい》に有りましたから、
七「あゝ有難い」
 と押戴き、幸い雪で人も通らず、懐へ入れてせっせと帰ってまいり、
七「往って来たよ」
内儀「あらまア貴方何うなすったの、笠も被らないで、そゝっかしいお方じゃアありませんか、あなたは石川様で黄金を御拝領なすったの」
七「え……何うしてお前それを知ってるえ」
内儀「何うしたって貴方が、顔色を変えて懐を捜しながらお駈出しなすったので、落し物に違いないと思いまして出て見ますと、路地に小さい紙入に宜《い》い金物が打ったのが落ちてましたから開けて見ますと黄金が入っていました、何でもこれは石川様に頂戴したに違いないと思い、余り嬉しうございますから神棚へ上げて置きましたところへ、宜い塩梅に酒屋の御用が通りかゝりましたから申付けて御酒《おみき》を上げてあります、何にも包まずにお置きなさるから落ちるんで、本当に貴方は何ぼ何だってお金を粗末に遊ばすと罰《ばち》が中《あた》りますよ」
七「嘘をお吐《つ》き、黄金はこゝにちゃんと有るん
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