え》り損《そく》なって済まねえてえ噂ばかりで、お前《めえ》さんも達者で」
七「まことに宜くお出でなすった、帝釈様《たいしゃくさま》へお詣《まい》りに行こうと思って、帰りがけにお寄り申そうとお梅《うめ》とも話をして居たが……お梅」
梅「おや宜く入《いら》っしゃいました、宜く田舎の人は重い物を脊負《しょ》ってねえ」
婆「はい御無沙汰、はい己《おら》が屋敷内に実《な》りました柿で、重くもあるが何《ど》うかまア渋が抜けたら孫に呉れべえと、孫に食わしてえばっかりで、重《おめ》えも厭《いと》わず引提《ひっさ》げて来ましたよ……はア最う構わず、飯も食って来ましたから、途中で足い労《つか》れるから蕎麦ア食うべえと思って、両国まで来て蕎麦ア食ったから腹がくちい、構って下さるな…七兵衞さん、私《わし》参《めえ》って相談致しますが、惣領の正太郎は私が方へ引取《ひきと》るから」
七「何《なん》で、何《ど》ういう訳で」

        十四

婆「何ういう訳もねえ、おらが方へ来てえだ云うが、おらが方へ置きたくはねえが、お前様《めえさま》ア留守勝で家《うち》の事は御存じござんねえが、悪戯《いたずら》は果《はた》すかは知らねえが、頑是《がんぜ》がねえ十《とお》にもなんねえ正太郎だから、少しぐれえの事は勘弁して下さえ」
七「あれさお婆さん極りを云って居るぜ、来ると愚痴を云うが、私《わし》の子だもの、奉公人も付いて居るわね……正太は又田舎のお婆さんに何か云ッつけたな」
正「何も云ッつけやアしない、お婆さんが彼方《あっち》へ連れて行くてえから行きてえや」
七「行きたいと」
婆「何ういう訳で大事の親父《おやじ》をまず捨てゝ、己《おら》が方の田舎へ来てえ、不自由してもと児心《こゞころ》にも思うは能《よ》く/\だんべえと思うからお呉んなさえ、縁切《えんきり》でお呉んなさえ」
七「そんな馬鹿な事を云ってはいけません」
婆「何故《なぜ》そんならぞんぜえに育てるよ」
七「ぞんざいに育てはしませんよ」
梅「旦那……正太郎が云ッつけたのでお婆さんは然《そ》うと思って居るのでしょう、私だっても頑是がないから、それは彼《あ》れも我儘を致しますが、邪慳《じゃけん》に育てることは出来ません、仏様の前も有りますから、私も来たての身の上で私が邪慳に育てるようなことは有りませんよ」
婆「邪慳にしないてえ、これが顋《あご》の疵《き
前へ 次へ
全152ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング