え》へ掛って六間堀の方へ曲りますと、水司又市は一人になりまして、深川の元町へ掛って来たから最う我慢は出来ません。先へ通り抜けると、御案内の通り片側《かたかわ》は籾倉《もみぐら》で片側町になって居りまして、竹細工屋、瀬戸物屋、烟草屋《たばこや》が軒を並べて居り、その頃田月堂という菓子屋があり、前町を出抜けて猿子橋にかゝりますると、此方《こちら》は猿子橋の際《きわ》に汚い足代《あじろ》を掛けて、苫《とま》が掛っていて、籾倉の塗直《ぬりなお》し、其の下に粘土《ねばつち》が有って、一方には寸莎《すさ》が切ってあり、職人も大勢這入って居るが、もう日が西に傾きましたから職人も仕事をしまいかけて居ります、なれども夕日は一ぱいに映《さ》す。其の中《うち》に空は時雨《しぐれ》で曇って、少し暗くなりました所で、笠を取って刎除《はねの》け、小刀《しょうとう》を引抜きながら、
繼「親の敵」
と名告《なの》りながらぴったり振冠《ふりかぶ》った時は、水司又市も驚いたの驚かないの、恟《びっく》り致して少し後《あと》へ退《さが》る。往来の者も驚きました。人中《ひとなか》で始まったから、はあと皆|後《あと》へ下《さが》りました。ちょうど此の時白島山平は少しも心得ませんから療治を致して一人の客を帰した後《あと》で、茶を点《い》れて一服|遣《や》って居りますると、入口から年四十二三の色の浅黒い女が、半纒《はんてん》を着て居りましたが、暖《あった》かいから脱ぎまして、包《つゝみ》へ入れて喘々《せい/\》して、
女「少しお頼みでございますがお手水場《ちょうずば》を拝借致しとうございます」
照「はい其処《そこ》は汚《きた》のうございますが、何ならお上《あが》りなすって」
女「いゝえ、汚ない処が心配が無くって宜しゅうございます」
とつか/\と雪隠《せっちん》へ這入り頓《やが》て出て参って、
女「あの少しお冷水《ひや》を頂き度《た》いもんでございます、此処《こゝ》に有るのを頂いても宜しゅうございましょうか」
照「其処にも有りますが、汚のうございますから、是れで……さア水を」
と柄杓で水を出すから、
女「有難うございます」
と手に水を受けながら顔を見て、
女「おや」
照「おやまアお前はきんかえ」
きん「あら誠にお嬢様」
照「なにお嬢様どころではないお婆様《ばあさん》だよ」
きん「誠に暫く」
照「まア思掛《お
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