で此方《こちら》へ斬込みましたのでございます」
太「成程お前の為には親の敵だ、またこれは姉の敵だと云ったな」
山「はい/\」
と手負《ておい》に成りました山之助が、漸《ようよ》うに血に染った手を突いて首を擡《もた》げましたが、
山「はア旦那様誠に申訳もございません、私は其の永禪と申しまする者が還俗して、また元の水司又市と申します者が、此のお繼の一旦親に成りましたお梅と申す者を尼の姿に扮《やつ》して、私の宅に泊り合せ、私の姉に恋慕を云い掛けました所が、姉が云う事を聞かぬと云うので到頭姉を殺して逃げましたのが水司又市でございます、それから私は姉の敵を討ちたいと心に掛けまして、此のお繼と二人三年越し巡礼に成って西国三十三番の札所を巡りまして、漸々《よう/\》の事で今日《こんにち》只今敵に逢いましたと存じまして、是へ参って承わりましても、貴方のお年は四十一歳、額に疵が有って元は榊原の家来水司又市と仰しゃいます故に善々《よく/\》お顔も見ずに踏込んで斬掛けました不調法の段は幾重にもお詫を致します」
太「うん二人は兄弟か」
山「えゝ是は只今は私の女房でございます」
太「うん左様か、うん是は何うも誠に気の毒千万、えん、うん水司又市あーア何うも彼奴《あいつ》は兇悪な奴だ、今に悪事を重ねる事で有るか、何う致してもなア、医者を呼んで手当をして遣ろうが、中々の深傷《ふかで》で有るて、なれども確《しっ》かり致せよ、命数尽きざる中《うち》は何《ど》の様《よう》な深傷でも、数十ヶ所縫う様な傷でも決して死ぬものじゃアない、又万一療養相叶わずして相果《あいはて》る事があれば、後《あと》に残るは貴様の女房……二人が剣術も知らずに無暗《むやみ》に敵を討とうと思っても、水司又市は中々の遣《つか》い手だから容易に討てやせぬ、手前も仔細有って其の水司又市に逢わんければ成らぬ事が有るから、貴様が万一の事が有れば娘は自分の娘にして剣術も教え、貴様は己が過《あや》まって殺したのじゃに依って、後々《のち/\》愈々《いよ/\》又市を討つ時には己が力に成って助太刀をして討たせるが、何か貴様申置く事があらば遠慮なく云えよ」
山「はい有難う、有難う、私は不調法から貴方に斬られて死ぬのは決してお怨みとは存じませんが、只水司又市に一刀《ひとたち》も怨まぬのが残念でございます、私の親と申しまする者は、元は榊原藩で貴方も御同藩な
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