を……」
 此の時女房は裏の井戸端で米を磨《と》いで居りました。じゃ/\/\/\と米を磨いで居り、余程|家《うち》から離れて居りまするから、右の騒ぎは聞えませんだったが、大声で呼びましたから、何事かと思って慌《あわ》てゝ家へ這入って見ると右の始末、
照「おや何う…」
太「何うたって今狼藉者[#「狼藉者」は底本では「狼籍者」]が這入ったのだ、何分暗くって分らぬから早く燈光を点《つ》けて来い」
 と云われて、女房は慌てながら火打箱でかち/\/\/\。

        五十六

 お照は火を打つ所が、慌てるから中々|点《つ》かないのを漸《ようよ》うの事で蝋燭を点《とも》して、
照「何うしたの」
 と見ると若い男が一人血に染って倒れて居り、また一人の娘を膝の下へ引敷いて居りますから。
照「こりゃアまア何でございます」
太「何だって今此の狼藉者[#「狼藉者」は底本では「狼籍者」]が這入ったのだ…さこれ能《よ》く面体《めんてい》を見ろ、人違いを致すな、己は人を害《あや》めた覚えも無し、敵と呼ばれて打たれる覚えも無い、これ面《おもて》を見ろ、心を静めて面を見ろ」
 と云われたから、山之助が漸うに起上って燈火《あかり》で顔を見ると、成程|年齢《としごろ》は四十一二にして色白く、鼻筋通り、口元が締って眉毛の濃い、散髪の撫付《なでつけ》で、額から小鬢《こびん》に掛けて疵《きず》が有りますなれども、能く見ると顔形《かおかたち》が違って居りまする故、
山「あゝ是は人違いをした」
 と思うと、
太「何うじゃ、違って居《お》ろうな」
山「はい誠に申訳がございません、全く人違いでございます」
照「人違いで敵だと云って斬込むとは人違いにも程がある、何ぼ年が行《い》かぬと云って、斬ってしまった後《あと》で人違いで済みますか、良人《あなた》はお怪我は有りませんか」
太「そんな事を云わんでも宜《よ》い、早く其処《そこ》らに散乱して居る火を消せ」
 と云われて御新造《ごしんぞ》が柄杓に水を汲んで蚊遣の火が落ちた処に掛けると、ちゅうぶうと云う大騒ぎ。此の時まで只泣いて居て口の利けぬのはお繼で、今燈火の影で山之助が血に染って居《い》る姿を見て、
繼「山之助さん確《しっ》かりして下さいよ……全く人違いでございますから、何《ど》の様《よう》にもお詫《わび》をいたしますが、何卒《どうぞ》お医者様を呼んでお手当を願
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