百「はい……おや巡礼どんが出掛けて来た」
婆「なにこれア己《おら》が孫だよ」
百「へえ婆さま、斯《こ》んな孫が有ったかえ」
婆「少《ちい》さい時から他《わき》へ往ってたから、貴方《あんた》ア知んなえが」
百「そうかねえ……額に疵が有りますよ」
繼「じゃア年は何でございますか、四十ぐらいに成りますか」
百「えゝ然うさ、四十もう一二ぐらいであろうか」
繼「元は榊原の家来に相違有りませんか」
百「えゝ然ういう話だなえ」
 これを聞くと山之助が出て来て、
山「只今蔭で承まわりましたが、その男は顔に疵がございまして、もとは侍で、一旦出家いたして、その還俗した者というお話でございましたが、其の名前は水司又市と申しますか」
百「おや/\/\また巡礼どんが」
婆「是も己《おら》がの孫だよ」
百「婆さま、お前《めえ》はまアえらく孫が幾人《いくたり》も有るなア……然うだ、己《おら》アもう忘れたが、アんたア[#「アんたア」はママ]云う通りの名前だっけ、あんたア宜く知ってるなア」
繼「それだよお婆さん」
婆「まあ然うかえ」
繼「本当だよ、観音様の御利益は有難いもの、本当に豪《えら》いもんだねえ」
百「えゝそりゃア実に豪いもんで、もう少しで忰もぶち斬られる所だったが……後《あと》で泥坊をお調べになったら、一人は浪人者で極《ごく》悪い奴だ、何とか云った、元は櫻井の家来で、それからが化物《ばけもの》のような名前で、柳の木の幽霊、細い手の幽霊いや柳の木に天水桶《てんすいおけ》か、うんそうじゃない、浪人者は柳田典藏で、細い手と云うのは勇治とかいう胡麻の灰という事が分って、お処刑《しおき》に成ると云う話だ」
婆「……おいこれえ待て/\、これえ待たねえか、汝《われ》が二人駈出しても文吉が帰って来ないば、向うは泥坊を生捕《いけど》るくれえな又市だから、汝が駈《か》ん出してもか細い腕で遣りそこなっては成んねえが、これ/\待っちろ、文吉が帰ったら相談ぶって三人で往《い》けよ…」
 と云ったが敵に逃げられては成らぬと云うので富川町の斯々《これ/\》斯々と聞くや否や飛立つばかりの喜びで、是から直《す》ぐに巡礼の姿に成って、苞《つと》の中へ脇差を仕込み、是を小脇に抱え込んで飛出し、深川富川町の按摩の家《うち》へ、山之助お繼が飛込みまして、愈々《いよ/\》猿子橋の敵討に相成りますると云うお話になります。一寸《ちょっと
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