所がのう婆さま、忘れもしねえ去年|中《ちゅう》、飛んだ目に逢ったゞ」
婆「はえーい何うしたゞえ」
百「何うしただって婆さま、押込《おしこみ》が這入《はえ》ったゞ」
婆「はえーい何処《どけ》えなア」
百「忰が行ってる菓子屋へ這入《はえ》ったなア、こりゃア何うも怖《おっか》なかったって、もう少しの事で殺される所だってえ」
婆「はえーい」
五十四
百「まだ宵の事だと云うが、商人《あきゅうど》の店は在郷《ざいご》と違って戸を締めても潜《くゞ》りの障子が有るから灯火《あかり》が表から見えるだ、すると婆様《ばあさま》、其処《そこ》をがらり明けて二人の泥坊が這入《はえ》って、菓子呉れと云いながら跡をぴったり締めて、栓を鎖《か》ってしまったゞ、店には忰と十七八の若い者と二人居る処《とけ》え来て、声[#「声」は底本では「處」]を立てると打斬《ぶちき》ってしまうぞと云うから、忰も若い者も口が利けない、すると神妙にしろ、亭主は何処《どこ》にいる、金は何処に有るか教えろ、声を出すと打斬ってしまうぞと云うから何うも魂消《たまげ》たねえ、それからなえ婆様、這入《はえ》った奴は泥坊で自分が縛られつけてるから人を縛る事が上手で、すっかり縛って出られないようにして、中の間《ま》の柱に繋《くゝ》って置いて、然《そ》うして奥の間へ這入《はえ》ると、旦那が奥の間で按摩取《あんまとり》を呼んで、横になって揉ませて居る其処《そけ》えずっと這入《はい》って来て、さア金え出せ、汝《われ》が家《うち》は大《でか》い構えの菓子屋で、金の有る事は知ってる、さア出せ、ぐず/\しやアがると拠《よんどこ》ろなく斬ってしまうぞ、さア金を出せと云うから、旦那は魂消たの魂消ないの、まるで旦那は口い利かれない、只今上げます/\命はお助け、命だけは堪忍して呉れと云うと、命までは取らぬ、金さえ出せば帰るから金え出せと云うので、其処《そけ》え蹲《つく》なんでしまっただ、するとお前《めえ》旦那を揉んでいた按摩取がどえらい者で、其処《そこ》に有った火鉢を取って泥坊の顔へぶっ投《ぽ》った」
婆「はえい怖《おっか》ないなアまア、うん、ぶっ投《ぽ》って火事い出来《でか》したかえ」
百「なに火事でなえ、灰が眼に這入《はえ》って、是アおいないと騒ぐ所へ按摩取が一人で二人の泥坊を押えて、到頭町の奉行所へ突出《つきだ》したと云うのだが、
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