《お》ろうに」
藤「あいた……腕が折れます、一寸《ちょっと》おかやどん、小増さんを呼んで来てというに、あゝいた/\/\/\」
大騒ぎになりましたが、丁度此の時遊びにまいって居たのが榊原藩の重役中根善右衞門《なかねぜんえもん》の嫡子《ちゃくし》善之進《ぜんのしん》と云う者でございますが、御留守居役[#「御留守居役」は底本では「御留守居後」]《おるすいやく》の御子息で、まだ二十四歳でございますから、隠れ忍んで来るが、取巻《とりまき》は大勢居まして、
取巻「もし困るではございませんか、遊女屋の二階で柔術《やわら》の手を出して、若者《わかいもの》に拳骨《げんこつ》をきめるという変り物でございますが、大夫《たいふ》が是にいらっしゃるのを知らないからの事さ、大夫のお馴染を知らないで通うぐらいの馬鹿さ加減はありません、あなた一寸《ちょっと》お顔を見せると驚きますよ、ちょいと鶴の一と声で向うで驚きますよ、ね小増さん」
小増「左様《そう》さ、一寸《ちょいと》顔を見せてお遣《や》りなさいよう」
と大勢に云われますと、そこが年の往《い》かんから直《す》ぐに立上りましたが、黒出《くろで》の黄八丈の小袖にお納戸献上《なんどけんじょう》の帯の解け掛りましたのを前へ挟《はさ》みながら、十三間|平骨《ひらぼね》の扇を持って善之進は水司のいる部屋へ通ります。又市は顔を一寸《ちょっと》見ると重役の中根でございますから、其の頃は下役の者は、重役に対しては一言半句《いちごんはんく》も答えのならぬ見識だから驚きました。後《あと》へ下《さが》って、
又「是は怪《け》しからん所で御面会、斯《かゝ》る場所にて何《なに》とも面目次第もござらん」
善「これこれ水司、何《ど》うしたものじゃ、遊女屋の二階でそんな事をしてはいかん、此処《こゝ》は色里であるよ、左様《そう》じゃアないか、猛《たけ》き心を和《やわら》ぐる廓へ来て、取るに足らん遊女屋の若い者を貴公が相手にして何うする積りじゃ、馬鹿な事じゃアないか、殊《こと》に新役では有るし、度々屋敷を明けては宜しくあるまい、私《わし》などは役柄で余儀なく招かれたり、或《あるい》は見聞《けんもん》かた/″\毎度足を運ぶことも有るが、貴公などは今の身の上で彼様《かよう》な席へ来て遊女狂いをする事が武田へでも知れると直《すぐ》にしくじる、内聞に致すから帰らっしゃい」
又「まことに
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