馴染か」
三十一
庄「いや馴染だって互いに打明けて埓《らち》くちもない事をした身の上で……まア無事で宜《い》いな」
傳「何時《いつ》此方《こっち》へ来たのだえ」
庄「何時と云うてお前も此方へ何時来たでありますと」
傳「いや何《ど》うも私《わっち》もからきし形《かた》はねえので、仕ようが無いから来たんだ」
庄「旦那妙なもので、これは本当に真の友達で、銭が無けりゃア貸して遣《や》ろう、己《お》らが持合《もちあわ》せが有れば貸そうという中で有りますと」
傳「随分此の人の部屋で燻《くずぶ》った事もあるのでねえ」
典「左様かえ、兎も角も」
と是から有合物《ありあいもの》で何かみつくろってと云って一杯始めると、傳次は改めて手を突き、
傳「私《わっち》ア旅魚屋の傳次と申す者で、何うか御贔屓になすって……大層机などが有りますね」
典「あゝ田舎は様々やらでは成らんから、出来はしないが、村方の子供などを集めてな、それに以前少しばかり易学《えきがく》を学んだからな売卜《うらない》をやる、それに又《ま》た少しは薬屋のような事も心得て居《お》るから医者の真似もするて」
傳「へえー手習の師匠に医者に売卜に薬屋でがすかこれは大丈夫でげす、どうも結構なお住居《すまい》ですな」
典「田舎では種々《いろ/\》な事を遣らぬではいかぬ、荒物屋は荒物ばかりと極《き》めてはいかぬて」
傳「妙でげすな」
典「さアお酌を致しましょう」
傳「へえ…有難う」
典「まずい物だが召上れ」
傳「頂戴致します……庄吉さん久し振で酌をして呉んねえ、何うも懐かしいなア、何うして来たかなア」
庄「本当に思掛けなくゆやはや恥かしいな、何うしてお前も此処《こゝ》へ来たか」
傳「旦那おかしい事があればあるものさ、此の人はね越中の高岡で宗慈寺という寺に居りました寺男でね、賭博《ばくち》をしておかしい事がありやした……今では過去《すぎさ》った事だが、あれは何うなったえ」
庄「何うたって何うにも彼《こ》うにも酷《ひど》い目に遭《お》うたぜ、私《わし》ア縁の下に隠れて、然《そ》うしてお前様|死人《しびと》とは知らぬから先に逃げた奴が隠れて居ると思うたから、其奴《そいつ》の帯を掴《つか》んでちま/\と隠れて居ると、さア出ろ、さア出ろと云うので帯を取って引かれるから、ずる/\と引摺《ひきず》られて出ると、あの一件が出たので」
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