子か何《なに》かあるだらう……最《も》う皆《み》な賓客《きやく》に持《も》たして遣《や》つてしまつたか……困つたなア……何《なに》かないかなア……ンー一|軒《けん》おいて隣家《となり》の大仏餅《だいぶつもち》でも宜《よ》い、仕方《しかた》がない……宜《よ》しく此餅《これ》を皆《みんな》皿《さら》に積《つ》んでの……さア何《ど》うか不味《つまら》ない物だが子供衆《こどもしう》に皆《み》な上《あ》げて下《くだ》さい。
 乞「どうも有難《ありがた》う存《ぞん》じます……左様《さやう》なら御遠慮《ごゑんりよ》なしに頂戴《ちやうだい》致《いた》しますと、亭主《ていしゆ》の河合金兵衛《かはひきんべゑ》が茶《ちや》を点《た》つてる間《あひだ》に、小丼《こどんぶり》を前《まへ》に引寄《ひきよ》せて乞食《こじき》ながらも、以前《いぜん》は名のある神谷幸右衛門《かみやかうゑもん》、懐中《ふところ》から塵紙《ちりがみ》を出《だ》して四つに折《を》つて揚子箸《やうじばし》で手探《てさぐ》りで、漸《や》うく餅《もち》を挟《はさ》んで塵紙《ちりがみ》の上《うへ》へ載《の》せて忰《せがれ》幸之助《かうのすけ》へ渡して自分も一つ取つて、乞「有難《ありがた》う存《ぞん》じます……大仏餅《だいぶつもち》と申《まう》すものは雅《が》がありまして、お茶受《ちやう》けには結構《けつこう》なお菓子でございますなア……どうも思ひ掛《が》けないことで……とオロ/\泣きながら、口の中でムク/\噛《か》んで居《を》りましたが、お茶がプツと出て来《き》たから、グツと嚥込《のみこ》むと餅《もち》が咽喉《のど》へ閊《つか》へた。幸「(苦悶《くもん》)グツ/\/\。主「おや/\何《ど》うかなすツたか。幸「(苦悶《くもん》)グツ/\/\……モヽヽヽ餅《もち》が……。主「餅《もち》が閊《つか》へたか……さア大変《たいへん》だ……泣きながら喫《たべ》るから閊《つか》へるのだ困つたものだ……お待ちなさい……此子《このこ》が心配する……私《わし》が脊《せなか》を叩《たゝ》いて上《あ》げる……宜《よ》いかい……失礼《しつれい》だが叩《たゝ》きますよ。と握《にぎ》り拳《こぶし》で二度《ふたつ》叩《たゝ》くと、グツと餅《もち》が通《とほ》つたが鼻の障子《しやうじ》が抜《ぬ》けてしまつた。乞「フガ/\/\……有難《はひはほ》うほざいます有難《はひはほ》うほざいます、餅《もひ》が通《とほ》りました。主「餅《もち》が通《とほ》つたか……おや/\貴方《あなた》の目《め》が明《あ》きましたな。乞「目《め》が明《あ》ひましたが、鼻《はな》が斯《く》んなになりました。主「何《ど》うしたんだ……どう/\……ハハア解《わか》つた今《いま》食《く》つた餅《もち》が、大仏餅《だいぶつもち》だから、目《め》から鼻へ抜《ぬ》けたのだ。
[#地から1字上げ](拠納谷直次郎速記)



底本:「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房
   2001(平成13)年8月25日初版第1刷発行
底本の親本:「定本 円朝全集 巻の13」世界文庫
   1964(昭和39)年6月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年6月19日作成
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