した事だが、堪忍しておくれよ、まア宜く来たねえ」
ま「はい、先程は折角御親切に云って下さいましたのに、承知致しませんでお腹立《はらだち》もございましょうが、まさか母や弟《おとゝ》の居ります前で結構な事でございますから、何卒《どうぞ》妾にお世話を願いますとは伯母さん、申されませんでしたが、実に今年の暮も往《ゆ》き立ちませんで、何かと母も心配して居りますから、私の様《よう》な者でも一晩お相手をして些《ちっ》とでもお金を下されば、母の為と思いまして、どの様《よう》にも御機嫌を取りましょうから、貴方《あなた》宜《よ》いお方をお世話なすって、先程母のお預け申した観音様のお厨子を返しては下さいませんか」
 と云われ、お虎はほく/\悦《よろこ》び。
虎「何かい、お前は彼《あ》のお母《っか》さんの為に…どうも感心、宜《よ》くまア本当に孝行だよ、仕方がないから諦めたのだろうが、否《いや》なお爺さんでは私も無理にとも云い難《にく》いが、鉄砲洲の屋根屋の棟梁で、江戸屋の清次さんという粋《いき》な女惚れのする人が、お前の親孝行で、心掛《こゝろがけ》が宜く、器量も好《い》いから、己《おら》アほんとうに女房《にょうぼ》に貰いたいと云ってるんだが、只《たっ》た一晩でお金を五円あげるとさ、私《わたし》ゃア誰にも云わないよ、丁度今二階に棟梁が来て居るから往って御覧、好《よ》い男だよ」
ま「それでは其のお方様に私が身を任せれば、お金を五円下さいますか、そうすれば其の内三円お返し申しますからどうか観音様を返して下さいまし」
虎「それは直《すぐ》にお厨子はお返し申しますがね、そんなら少し待っておいで」
 と婆《ばゞあ》はみし/\と二階へ上《あが》ってまいりまして。
虎「棟梁、フヽフン、彼《あ》の子も苦し紛《まぎ》れに往生して、親の為になる事なら旦那を取ろうと得心をしたよ、ちょいと今あの子も切迫詰《せっぱつま》り、明日《あす》に困る事があるのだが、拾円のお金を遣《や》っておくれな」
清「それは遣るよ」
虎「彼《あ》の子の云うには、私もねえ元は立派な御用達《ごようたし》の娘でございますから、淫売《じごく》をしたと云われては世間へ極《きま》りが悪いから、惚合《ほれあ》って逢ったようにして、□[#底本1字伏字]寝をされた事は世間へ知れない様にして下さいと云うから其の積りで、そうして棟梁も拾円|遣《や》ったなんぞ[
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