層まア立派な観音さま、何《なん》だか知りませんが、まア/\金の抵当《かた》に預って置きましょう、成程|丈《たけ》も一寸八分《いっすんはちぶ》もありましょう、これなれば五円や十円のものはあろう」
と云いながら艶消《つやけ》しの厨子《ずし》へ入ったまゝ懐へ入れて帰りました。お虎|婆《ばゞあ》は夜《よ》に入《い》って楽《たのし》みに寝酒を呑んでいます所へ入って来たのは、鉄砲洲新湊町《てっぽうずしんみなとちょう》に居りまする江戸屋《えどや》の清次《せいじ》という屋根屋の棟梁《とうりょう》で、年は三十六で、色の浅黒い口元の締った小さい眼だが、ギョロリッとして怜悧相《りこうそう》で垢脱《あかぬ》けた小意気《こいき》な男でございます。形《なり》は結城《ゆうき》の藍微塵《あいみじん》に唐桟《とうざん》の西川縞《にしかわじま》の半纒《はんてん》に、八丈の通《とお》し襟《えり》の掛ったのを着て門口《かどぐち》に立ち。
清「お母《っか》ア宅《うち》か、お虎宅かえ」
虎「誰だえ、おや棟梁さんか、お上《あが》んなさい」
清「滅法《めっぽう》寒くなったのう、相変らず酒か」
虎「棟梁さんは毎《いつ》も懐手《ふところで》で好《い》い身の上だねえ」
清「己《おれ》は遊人《あそびにん》じゃアねえよ、此の節は前とは違って請負《うけおい》仕事もまご/\すると損をするのだ、むずかしい世の中になったのよ」
虎「棟梁さんは今盛りで、好《い》い男で、独《ひと》り置くのは惜しいねえ、姉《あね》さんの死んだのは歳年《いくねん》に成りましたっけねえ」
清「もう五年に成るがお母《っか》アが最《も》う些《ちっ》と若ければ女房《にょうぼ》に貰うんだがのう」
虎「調子の宜《い》いことを云ってるよ」
清「女房《にょうぼ》で思い出したが、此の長屋の親孝行な娘は好《い》い器量だなア」
虎「あれは本当にいゝ娘だよ」
清「顔ばかりじゃねえ、何処《どこ》から何処まで申分《もうしぶん》がねえ女だが、あれを女房《にょうぼ》に貰いていが礼はするが骨を折って見てくれめえか、そうすれば親も弟も皆《みんな》引取っても宜《い》いが、どうだろう」
虎「いけないよ、年は二十五だが、男の味を知らないで、応《うん》とさえ云えば、立派な旦那が附いて、三十円|遣《や》るというのに、まさか囲者《かこいもの》には成らないと云うのだよ、何ういう訳だか、本当に馬鹿気《ば
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