ば遣《つか》ってしまい、なくなれば又借りに来る、是《こ》れだけの金主《きんしゅ》を見附けたのだから僕の命のあらん限《かぎり》は君は僕を見捨《みすて》ることは出来めえぜ」
丈「明後日《あさって》は晦日《みそか》で少し金の入る目的《めあて》があるから、人に知れんような所で渡してえが、旨い工夫はあるまいか」
又「それは訳《わきゃ》アねえ、僕が鍋焼饂飩を売ってる場所は、毎晩|高橋《たかばし》際《ぎわ》へ荷を降《おろ》して、鍋焼饂飩と怒鳴《どな》って居るから、君が饂飩を喰う客の積《つも》りで、そっと話をすれば知れる気遣《きづかい》はあるめえ」
丈「そんなら遅くも夜の十二時頃までには往《ゆ》くから、十一時頃から待ってゝくれ」
又「百円は其の時|屹度《きっと》だよ、千円もいゝかね」
丈「千円の方は遅くも来月中旬までには相違なく算段するよ、これだけの構《かまえ》をしていても金のある道理はない、七ヶ年の間皆|遣《や》り繰《く》りでやって来たのだからよ」
又「じゃア飯を喰って帰《けえ》ろう」
 とずう/\しい奴で、種々《いろ/\》馳走になり、横柄《おうへい》な顔をして帰りました故、奉公人は皆不思議がって居りました。これから助右衞門の女房《にょうぼう》や忰《せがれ》が難儀を致しますお話に移りますのでございますが、鳥渡《ちょっと》一息|吐《つ》きまして申上げます。

     四

 春見丈助は清水助右衞門を殺し、奪取《うばいと》った三千円の金から身代を仕出し、大《たい》したものになりましたのに引替え、助右衞門の忰《せがれ》重二郎は人力を挽《ひ》いて漸々《よう/\》其の日/\を送る身の上となりましたから、昔馴染《むかしなじみ》の誼《よし》みもあると春見の所へ無心に参れば、打って変った愛想《あいそ》づかし、実に悪《にく》むべきは丈助にて、それには引替え、娘おいさの慈悲深く恵んでくれた三円で重二郎は借金の目鼻を附け、どうやら斯うやら晦日《みそか》まで凌《しの》ぎを附けると、晦日には借金取が来るもので、お客様方にはお覚えはございますまいが、我々どもの貧乏社会には目まぐらしい程まいります。
米屋「はい御免よ、誠に御無沙汰をしました、時にねえ余り延々《のび/\》に成りますから、今日は是非お払いを願いたいものだ」
まき「誠にお気の毒さまで、毎度おみ足を運ばせて済みませんが、御存じの通り母が眼病でござい
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