の忰《せがれ》だから驚きましたのは、七年|前《あと》自分のお父《とっ》さんが此の人のお父《とっ》さんを殺し、三千円の金を取り、それから取付いて此様《こんな》に立派な身代になりましたが、此の重二郎はそれらの為に斯《か》くまでに零落《おちぶ》れたか、可愛《かわい》そうにと、娘気《むすめぎ》に可哀《かあい》そうと云うのも可愛《かわい》そうと云うので、矢張《やはり》惚《ほ》れたのも同じことでございます。
い「あの利助や」
利「へい/\、出ちゃいけませんよ、/\」
い「あのお父《とっ》さんは奥においでなさるから其の方《かた》にお逢わせ申しな」
利「お留守だと云いましたよ、いけませんよ」
い「そんな事を云っちゃアいけないよ、お前は姿《なり》のいゝ人を見るとへい/\云って、姿の悪い人を見ると蔑《さげす》んでいけないよ、此の間も立派な人が来たから飛出して往って土下座したって、そうしたら菊五郎《きくごろう》が洋服を着て来たのだってさ」
利「どうも仕方がないなア、此方《こちら》へお入《はい》り」
 と通しまして直《すぐ》に奥へまいり、
利「えゝ旦那様、見苦しいものが参って旦那様にお目にかゝりたいと申しますから、お留守だと申しましたところが、お嬢さまがお逢わせ申せ/\と仰《おっ》しゃいまして困りました」
丈「居ると云ったら仕方がないから通せ」
利「此方へお入り」
重「はい/\」
 と怖々《こわ/″\》上《あが》って縁側伝いに参りまして、居間へ通って見ますと、一間《いっけん》は床の間、一方《かた/\》は地袋《じぶくろ》で其の下に煎茶《せんちゃ》の器械が乗って、桐の胴丸《どうまる》の小判形《こばんがた》の火鉢に利休形《りきゅうがた》の鉄瓶《てつびん》が掛って、古渡《こわたり》の錫《すゞ》の真鍮象眼《しんちゅうぞうがん》の茶托《ちゃたく》に、古染付《ふるそめつけ》の結構な茶碗が五人前ありまして、朱泥《しゅでい》の急須《きゅうす》に今茶を入れて呑もうと云うので、南部の万筋《まんすじ》の小袖《こそで》に白縮緬《しろちりめん》の兵子帯《へこおび》を締め、本八反《ほんはったん》の書生羽織《しょせいばおり》で、純子《どんす》の座蒲団《ざぶとん》の上に坐って、金無垢《きんむく》の煙管《きせる》で煙草を吸っている春見は今年四十五歳で、人品《じんぴん》の好《い》い男でございます。只《と》見ると重二郎だから恟《
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