寝ついた様子に、春見は四辺《あたり》を見廻すと、先程又作が梁《はり》へ吊《つる》した、細引《ほそびき》の残りを見附け、それを又作の首っ玉へ巻き附け、力に任《まか》せて縊附《しめつ》けたから、又作はウーンと云って、二つ三つ足をばた/\やったなり、悪事の罰《ばち》で丈助のために縊《くび》り殺されました。春見は口へ手を当て様子を窺《うかゞ》うとすっかり呼吸が止った様子ゆえ、細引を解《と》き、懐中へ手を入れ、先刻渡した千円の金を取返《とりかえ》し、薪《たきゞ》と木片《こっぱ》を死人《しびと》の上へ積み、縁の下から石炭油《せきたんゆ》の壜《びん》を出し、油を打《ぶ》ッ注《か》け、駒下駄《こまげた》を片手に提《さ》げ、表の戸を半分明け、身体を半《なか》ば表へ出して置いて、手らんぷを死骸の上へ放《ほう》り付けますと、見る/\内にぽっ/\と燃上《もえあが》る、春見は上総戸《かずさど》を閉《た》てる間もなく跣足《はだし》の儘《まゝ》のめるように逃出しました。する内に火は※[#「※」は「火へん+「稲」のつくり」、第4水準2−79−87、570−1]々《えん/\》と燃え移り、又作の宅《うち》は一杯の火に成りましたが、此の時隣りの明店《あきだな》にいた清次は大《おお》いに驚き、まご/\しては焼け死ぬから、兎も角も眼の悪い重二郎のお母《ふくろ》に怪我《けが》があってはならんと、明店を飛出《とびだ》す、是から大騒動《おおそうどう》のお話に相成ります。
七
西洋の人情話の作意《さくい》はどうも奥深いもので、証拠になるべき書付《かきつけ》を焼捨《やきす》てようと思って火を放《つ》けると、其の為に大切の書付が出るようになって居りますが、実に面白く念の入りました事で、前回に申上げました通り、春見丈助は井生森又作を縊《くび》り殺して、死骸の上に木片《こっぱ》を積み、石炭油《せきたんゆ》を注《つ》ぎ掛けて火を放《つ》けて逃げますと云うのは、極悪非道な奴で、火は一面に死骸へ燃え付きましたから、隣りの明店《あきだな》に隠れて居りました江戸屋の清次は驚きましたが、通常《あたりまえ》の者ならば仰天《ぎょうてん》して逃げ途《ど》を失いますが、そこが家根屋《やねや》で火事には慣れて居りますから飛出《とびだ》しまして、同じ長家《ながや》に居《い》る重二郎の母を助《す》けようと思ったが、否々《いや/\》先
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