《うわのり》をして古河の船渡《ふなと》から上《あが》って、人力を誂《あつら》え、二人乗《ににんのり》の車へ乗せて藤岡を離れ、都賀村へ来ると、ぶんと[#「ぶんと」は「ぷんと」の誤記か]死骸の腐った臭《にお》いがすると車夫が嗅《か》ぎ附け、三十両よこせとゆするから、遣《や》るかわりに口外するなと云うと、火葬にすると云って、沼縁《ぬまべり》へ引込んで、葭《よし》蘆《あし》の茂った中で、こっくり火葬にして、沼の中へ放り込んだ上、何かの様子を知った人力車夫の嘉十、活《いか》して置いては後日の妨《さまた》げと思い、簀蓋《すぶた》を取って打殺《うちころ》し、沼へ投《ほう》り込んで、それから、どろんとなって、信州で其の年を送って、石川県へ往って三年ばかり経《た》って大阪へまいった所、知《しっ》ての通り芸子舞子の美人|揃《ぞろ》いだからたまらない、君から貰った三百円もちゃ/\ふうちゃさ、止《や》むを得ず立帰《たちかえ》った所が、まア斯《こ》ういう訳で取附く事が出来ねえから、鍋焼饂飩《なべやきうどん》と化けてると、川口町に春見|氏《うじ》とあって河岸蔵《かしぐら》は皆《みん》な君のだとねえ、あのくれいになったら千円ぐらいはくれても当然《あたりめえ》だ」
春「金は遣《や》るから預り証書を出したまえよ」
又「無いよ、どうせ人を害せば斬罪《ざんざい》だ、僕が証書を持ってゝ自訴《じそ》すれば一等は減じられるが、君は逃《のが》れられんさ、宜《よろ》しいやねえ、まア宜《い》いから心配したもうな」
春「出さんなら千円やらんよ」
又「だって無いよ、さア見たまえ」
と最前《さいぜん》預かり証書は饂飩粉《うどんこ》の中へ隠しましたゆえ平気になり、衣物《きもの》をぼん/\取って振《ふる》い、下帯《したおび》一つになって。
又「此の通り有りゃアしない、宅《うち》も狭いから何処《どこ》でも捜して見たまえ」
と云われ春見も不思議に思い、あの証書を他《ほか》へ預けて金を借《かり》るような事は身が恐いから有るまいが、畳の下にでも隠して有ろうも知れぬから、表へ出してやって、後《あと》で探《さが》そうと思い。
春「まア宜《よ》い、仕方がないが、斯《こ》う家鴨《しゃも》ばかりでは喰えねえ、向河岸《むこうがし》へ往って何か肴《さかな》を取って来たまえ」
と云いながら、懐中から金を一円取出して又作の前へ置く。
又「これは
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