武家「はい…はい、それはお気の毒な事じゃ、むー…」
小田原提灯をこう持上げて見ますると、下を向いて袖を顔に押当て、ポロ/\泣いて居ります。眤《じっ》とその様子を見て居りましたが、軈《やが》て一掴みの金子を小菊に包んで、
武「これを遣わすから、早う帰って親御に孝行を致せ、したが女子《おなご》の身の夜中《やちゅう》と云い、いかなる災難に遇わんとも限らんから向後《きょうこう》袖乞は止《や》めに致すがよい」
とお筆に渡すと其の儘往って仕舞いました。お筆は嬉し涙にくれて見送って居りましたが家《うち》へ帰って包を明けて見ますと古金《こきん》で四五十両、お筆は恟《びっく》りして四辺《あたり》を見廻し、
筆「はア…何《ど》うしたんだろう、心の迷いじゃアないか知ら、先刻《さっき》彼所《あすこ》を通り掛ったのは武士《さむらい》と思ったのが狐か何かで私を化《ばか》したのじゃアないか知らん、私がお鳥目を欲しいと思う其の気を知ってつままれたのか知らん」
と足をギイーッと抓《つね》ったが痛いから、
筆「夢じゃアないが、ハテ何うしたんだろう、向後袖乞に出るなと仰しゃったから、御親切な殿様で私の戸外《おもて》へ出ない様に多分にお金を下すった事か、あゝー……私の為には神さま……」
と手を合せて伏拝み何所《どこ》の人だか知りませんから心の中《うち》で頻《しき》りと礼を云い、翌日《あした》に成りますると先《ま》ず此金《これ》でお米を買うんだと云う、其のお米を買うたって一時《いちじ》に沢山《たんと》買って知れては悪いと思いましたから、狐鼠《こっそ》り少し買い、一朱もお金を出せば薪も買えれば炭も買える、又金を一つ処へ仕舞って置いて知れると悪いと思いましたから、彼方此方《あっちこっち》へお金を片附けて仕舞って置きまして、些《ちっ》とずつ出して使い、
筆「お父《とっ》さまはお寒かろうから暖《あった》かい夜具を着せたい」
と夜見店《よみせ》へ参りまして古着屋から小僧さんに麻風呂敷に掻巻《かいまき》に三布蒲団《みのぶとん》を背負《せお》い込ませ、長家の者に知れない様にお父さんに半纏を着せたいと云うので段々と狐鼠《こそ》/\買物をして参りますが、世間じゃア直《すぐ》に目が着きます、或る時例の姐子《あねご》が、
姐「おい勘次や」
勘「えゝ」
姐「奥のお筆さんは良《い》い旦那でも附いたのじゃアねえ
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