け下さいました趣《おもむ》きで有難う存じます、それに亦《また》お宅の嬢様も御逝去《おなく》なりと承りましたが嘸《さぞ》御愁傷で、七日《なぬか》の朝築地の波除杭《なみよけぐい》の処へ土左衛門が揚ったと云うので、私《わたし》も思わずお筆の死骸と存じまして跣足《はだし》で箸と茶碗を持って駈出す様な事で、行って見ると小紋の紋附に紫繻子の帯を締めまして赤い切《きれ》を頭へ掛けて居りまして、お筆ではないかと存じましたが、それが此方のお嬢様の御死骸と只今承る様な事で」
 孫「成程それは/\誠にどうも」
 金「えゝ其のお筆が居りますなれば私《わたくし》が逢い度《た》いもので、是へ何卒《なにとぞ》お呼びなすって」
 孫「誠に間が悪がって、貴方にお目には掛れないと云って居ります」
 家「なに然《そ》んな事は有りません、これお筆さんや何《なん》でお前どうも困るじゃアないか」
 孫「まア其様《そんな》に大きな声をなすっては却っていけません、これ婆ア此処《こゝ》へ連れてお出で/\」
 妻「さア此処へお出で」
 と孫右衞門の妻に連れられてお筆は面目なげに泣きながら出て参りまして、顔も上げ得ませんで泣伏して居ります。
 家「お前まア、何《ど》ういう訳でそんな軽率《かるはずみ》な事をしたのだえ、無分別の事ではないかえ、私に言い悪《にく》ければ家内にでも云って呉れゝば此様《こん》な事にはならないものを、親父さんは一人の娘が入水を致したからは此の世に何一つ楽《たのし》みはないと置手紙をして世帯道具も其の儘置去りにして行方知れず、だが又帰る事もありましょうから親御の帰るまで私の家《うち》へお帰り、面目ない事は少しもありませんよ、何時迄も此方《こちら》にお世話になって居ては済まん事で、さア、私《わし》と一緒に帰んなさい」
 筆「はい」
 孫「あゝ申し、就きまして貴方に折入ってお願《ねがい》がございますが、此のお筆さんは今は親の無い身の上で何処《どこ》へ参ると云う見当《あて》もない事で、親御の御得心の無い者を私の娘に貰い度《た》いとも申されませんが、お前|様《さん》が御承知下されば何《ど》うも此の娘《こ》を私の娘《むすめ》にし度いと思いますが、是が深い縁があって助けたのだと家内も申して居りますので、私は他に子供がないから、何卒《どうか》此の娘《こ》を貰って養子を仕様と云う積りで、親の承知の無い者をお貰い申す
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