ま》りがあると言葉に濁りがあるから、目を眠って裁判を致されたと申しますが、依田様も吟味中は目を眠って先の云う事を聞かれました。
 豐「新吉原町江戸町一丁目辨天屋祐三郎抱え紅梅、祐三郎代かや附添の者|罷《まか》り出《い》でたか」
 かや「皆出でましてございます」
 豐「うむ、紅梅何歳に相成る」
 紅「はい二十七なんです」
 豐「うむ、其の方昨年十一月三日亭主番人喜助に毒酒を盛ったる侍を取押えた由、是なる浪人清左衞門は其の方の夫喜助に毒を盛ったる者に相違ないか」
 紅「はい、間違いやアしません、何も女郎になりたい事はありませんので、一生懸命に何《ど》うかして亭主の敵《かたき》が討ちたいと思って親類の止るのも聞かずに泥水の中に這入り、苦海《くがい》の中《うち》に居ても万一《ひょっと》して敵を尋ぬる手掛りにもなろうと思ったから、此んな処へ這入って居るので、察してお呉んなさいよ」
 なんと云う。お奉行様は少しお考えで、
 豐「夫《それ》に相違ないな」
 かや「かやが申し上げますが、もう紅梅が勤めて居りまして皆《みんな》是々《これ/\》だと打明けて話しました、店の若い者や何かに皆《みんな》頼んでありますから、網を張って待って居た処へ、あの侍が来たというので一時《いちどき》に取押えましたから、まア容易《たやす》く縄に掛けて会所へ廻し、此の度《たび》御奉行様の御厄介に成りましたどうか何分宜しくお願い申します」
 豊「うむ、浪人下河原清左衞門」
 清「はゝア」
 と残念そうな顔をしてずっと首を擡《あ》げました。
 豐「其の方は何歳だ」
 清「四十九歳に相成ります、へえ…」
 豐「昨年十一月三日八ツ半|時《どき》と申す事じゃが、番人喜助方へ参って小さい徳利《とくり》を持ち銘酒だと云って喜助に毒を飲ませたに相違あるまい、真直《まっすぐ》に白状致せ」
 清「恐れながら手前毛頭覚えがございません、はい何故《なにゆえ》に毒を盛りましょうか、何等《なんら》の人違いか、頓と解りません、侍でござる、仮令《たとえ》浪人しても汚名は厭《いと》います事で、如何にも残念に心得まする、何故|斯様《かよう》な事を申すか頓と相解りません、神に誓い決して人を毒殺いたすなどゝいうは毛頭覚えのない事、御推察下さるように」
 豐「其の方|何様《いかよう》に陳じても、是なる遊女紅梅は貞節なる心から致して夫《おっと》の敵が討
前へ 次へ
全67ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング