て出れば、お筆さんの助からん事は有るまい、私も長らく他人《ひと》の物を盗み取って旨い物を喰い好《よ》い着物も着たが、金子《かね》を沢山取った割合には夫程《それほど》栄耀《えよう》はせんよ、皆《みん》な困る者に恵んだ方が多い、可哀想だと思っては恵み、己《おのれ》の罪を重ねる道理だから止そうとは思い/\止められんと云う処が是が因果じゃな、前世の約束事で有ろう、もう天命を知りこゝらが丁度宜い死に処だ、私は廿九に成りますよ」
藤「へえー、えへゝゝ、へえー」
武「名乗って出てお上の御処刑を受けた跡でお題目の一遍も称《あ》げてお呉れ」
藤「へえ、途方もない御冗談ばかり」
武「いや冗談じゃア無い全くだ、其方《そちら》のお方は」
藤「是は伊勢銀と申す町内の質屋の手代でげすが、昨晩盗賊が家尻を切りましたので今日《こんにち》お訴えに参って居りますので」
というと武士《さむらい》は平気で、
武「左様か直《すぐ》に分りますよ、昨夜お前さんの処の家尻を切ったのは私《わし》だよ」
芳[#「芳」は底本では「若」と誤記]「え、貴方、へえー」
武「それは気の毒千万な、お手数をかけて、全くはお家主が彼家《あすこ》は金持だとのお指図で……」
藤「私《わたくし》は其んな事は云やアしません、驚いたなア」
何うも沈着《おちつ》いたもので、是から八ツの御退出《おさがり》から一同曲淵甲斐守公のお白洲へ出ました、孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]の娘お筆も引出《ひきいだ》され、訴えの趣きを目安方が読上げますると甲斐守様がお膝を進められまして、
甲「備前岡山無宿|月岡幸十郎《つきおかこうじゅうろう》」
幸「へえ」
甲「其の方が訴え出でたる趣きは十一月廿二日の夜《よ》芝赤羽根勝手ヶ原中根兵藏方へ忍び入り、家尻を切って八百両盗み取ったる金子の内を、数寄屋河岸の柳番屋の蔭に於て是なる筆に恵み与えたるに相違なく、筆には毛頭罪なき事であればお免《ゆる》しを願い度《たき》趣を訴え出でたるが全く其の方が盗み取ったる金子を是なる筆に遣わしたに相違ないか」
幸「えゝ先夜は私《わたくし》が柳番屋の蔭を通り掛りますると、是なる筆が私の袖に縋って涙を零《こぼ》しながら頼みます故、何故《なにゆえ》袖乞をするかと尋ねましたら、父が長らくの患い、腰が抜けて起居《たちい》も自由ならず商売も出来ませんの
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