すって」
 武「ゆるせと申したって連れだから貴様の名も書かなければならんよ」
 ×「へえ……私《わっち》ア、ガチャ留《とめ》と申します」
 武「ガチャ留と云う名が有るか」
 留「何《なん》だか知りませんが子供の時分から、ガチャ留ッてえます」
 武「留吉か留次郎か」
 留「其処《そこ》の処は私《わっち》どもの事ですからガチャ留でお負けなすって」
 武「負けると云う事はない、留吉か全く」
 留「えへゝゝ忘れました」
 武「自分の名をわすれる奴があるか貴様達は最《も》う宜しい」
 両人「有難う存じます」
 と両人は直《すぐ》に駈出して小田原迄逃げたと云うが、其様《そんな》に逃げなくっても宜しい。此の武家《ぶけ》は莞爾《にっこり》笑って直其の足で京橋鍛冶町へ参りました。又、親父の孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]は只おろ/\泣いてばかり居ます、家主も誠に気の毒で間《ま》が有れば時々見舞いに来ます。
 家「はい御免よ孫右衞門[#「孫右衞門」は底本では「孫兵衞」と誤記]さんお前|然《そ》う泣いてばかり居ちゃアいけないよ、其様《そんな》にくよ/\したって仕方がない、是はお前何うもその、悪い事は悪いこと、善悪《よしあし》共にお上《かみ》は明らかにお調べなさる処だから、全体お前大金を貰った時にねえ、ちょいと私にでも話をすれば直《すぐ》に訴えて仕舞えば何も仔細ないのだ、彼《あ》の娘《こ》は他人の物を取る様な娘じゃアないが、私の長家から縄付きに成って引かれる者が有っては家主の恥辱《はじ》だが、なに彼の娘はお前を大切にして親孝行な子だから、何《ど》んなそれア穏密方《おんみつがた》が来て調べたって長い間のお前の煩いを介抱した様子から皆《みんな》世間で知って居るから早晩《いまに》彼の子も罪が免《ゆ》りて帰れようから然う泣いてばかり居ちゃアいけない、身体に障ると悪いから余《あんま》り心配をせぬがいゝ」

        九[#「九」は底本では「八」と誤記]

 親父は涙をこぼしまして、
 孫「はい、有難う、私《わたくし》は此様《こん》な業病《ごうびょう》に成りましたもんだから、彼《あれ》が私を介抱するので内職も出来ませんゆえ追々其の日に追われ、何も彼《か》も売尽して仕方がない処から、彼が私に内証で袖乞に出る様な事に成ったので、斯《こ》う云う災難に出会ったかと思いますと、私《わた
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