は如才《じょさい》ねえや、巧《うめ》えや」
武「酌を仕様」
×「いえ殿様、此方《こっち》でします」
武「いや酌をしよう」
△「えへゝゝ是は有難うございます、何《いず》れお浮れでございますな、昨夜《ゆうべ》廓内《なか》へ行って」
武「うむ、廓内へ行って来た」
△「えへゝゝ殿様なんざア男が好《よ》くって美《い》い扮装《なり》だからもてやすが、私《わっち》どもはもてた事はなく振られてばかり居ても行き度《た》えから別段で」
武「何うだ猪口《ちょく》を貰おう」
△「御免なせえまし、水を貰いましょう、おい女中茶漬茶碗へ水をよう、なッてえ、宜いから黙って居ろい」
武「水などで灌《そゝ》いでは水臭い、其んな事をせんでも宜しい」
×「兄い止しなよ」
△「宜いよ黙って居ろえ」
武「是は何うも、酒の嗜《す》きな者は妙なものだ、が今聞いて居たが、何か其の京橋|辺《へん》の数寄屋河岸の柳番屋の陰で金子《きんす》を貰った娘《むすめ》が有るとか云う話だが、それは何う云う訳だ」
と云われた時は両人は驚きわな/\しながら。
△「へえ」
×「だから止しねえと云ったんだ大きな声をしてパッパと云うから宜《い》けないんだ」
武「何も心配な事はない何かえ夫《そ》れは」
△「へえ………誠にどうも、喰《くれ》え酔って居まして大きに不調法を致しました、真平《まっぴら》御免なさいまし」
武「いや不調法な事は些《ちっ》ともない、柳番屋の処へ袖乞いに出る娘に武家《さむらい》が金子を遣ったんだな」
△「へえ、何うも明瞭《はっき》り分りませんので」
武「いや分らん事はない、今お前が話をしたではないか、何《なん》と云う者の娘だえ夫《そ》れア」
×「殿様|此者《これ》は喰《くら》い酔って居まして唯詰らねえことを云ってたんで出鱈まえで、唯|茫然《ぼんやり》、変な話なんで、嘘を云ったんで」
武「なに嘘のことはない、何も心配になる事はないから、私《わし》に聞かすれば宜いのだ、京橋の何処《どこ》の者だえ……」
△「へえ」
武「云わんか、いま貴様が云った事は衝立の蔭で聞いて居ったが、少し調べる事が有るから聞くのだ」
×「だから己が先刻《さっき》から、斯《こ》う云うことを云って係合に成ったものが有るから大きな声をして云うなと云うのだ」
△「本当に殿様ア……私《わっち》ア明瞭り知らないんで」
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