とまア旦那《だんな》貴方《あなた》の今日《けふ》のお召《めし》の好《よ》いこと、結城《ゆふき》でせう、ナニ節糸織《ふしいとおり》、渋《しぶ》い事ね何《ど》うも、お羽織《はおり》のお色気《いろけ》と取合《とりあひ》の好《よ》いこと、本当《ほんたう》に身装《なり》の拵《こさへ》は旦那《だんな》が一|番《ばん》お上手《じやうず》だと皆《みんな》がさう云《い》つてるんですよ、あのね此春《このはる》洋服《やうふく》で入《い》らしつた事がありましたらう、黒の山高帽子《やまたかばうし》を被《かぶ》つて御年始《ごねんし》の帰《かへり》に、あの時は何所《どこ》の大臣《だいじん》さんが入《い》らしつたかと思つた位《くらゐ》ですよ、本当《ほんたう》に旦那《だんな》は何《なに》を召《め》しても能《よ》くお似合《にあひ》なさること、夫《それ》に旦那《だんな》はお優《やさ》しいから年寄《としより》でも子供でも、旦那《だんな》は入《い》らつしやらないか、入《い》らつしやらないか、とお慕《した》ひ申《まうし》ます所が誠に不思議だ、あれだけ何《ど》うも旦那《だんな》は萬事《ばんじ》に御様子《ごやうす》が違ふんだと然《さ》う云《い》つてますの、まア二階へお上《あが》んなさいましよ、まアさ其様《そん》な事を云《い》はずに彼《あれ》を喚《よ》んでおやんなさいよ、でないと若い妓《こ》を一人殺しちまふやうなもんです、本当《ほんたう》に貴方《あなた》は芸妓殺《げいしやころし》ですよ、まアちよつと二階へお上《あが》んなさいよ」。主人「エヘヽヽ此手《このて》では如何《いかゞ》でございます。婦人「成程《なるほど》是《これ》は頓《とん》だ宜《よ》うございますね、ぢやア之《これ》を一つ戴《いたゞ》きませうか。帯《おび》の間《あひだ》から紙幣入《さついれ》を出して幾許《いくら》か払《はらひ》をして帰《かへ》る時に、重い口からちよいと世辞《せじ》を云《い》つて往《ゆ》きましたから、大《おほ》きに様子《やうす》が宜《よろ》しうございました。其後《そのあと》へ入違《いれちが》つて這入《はいつ》て来《き》ましたのが、二子《ふたこ》の筒袖《つゝそで》に織色《おりいろ》の股引《もゝひき》を穿《は》きまして白足袋《しろたび》麻裏草履《あさうらざうり》と云《い》ふ打扮《こしらへ》で男「エヽ御免《ごめん》なさい。若「へい、入《い》らつしやい
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