では余程|隔《へだ》って居りますが、雪の夜《よ》で粛然《しん》としているから、遥《はるか》に聞える女の声。
安「貞藏/\誰《たれ》か門を叩いている様子じゃ」
貞「いや大分雪が降って参りました、私《わたくし》先程台所を明けたらぷっと吹込みました、どうして中々余程の雪になりましたから、此の夜中《やちゅう》殊《こと》に雪中《せっちゅう》に誰《たれ》も参る筈はございませぬ」
安「でも、それ門を叩く様子じゃ」
貞「いゝえ大丈夫」
安「いや左様でない…それそれ見ろ…あの通り…それ叩くだろう」
貞「へえ成程えゝ見て参りましょう、えゝ少々御免遊ばして、大層酩酊致しました、ひょろ/\致して歩けませぬ、えゝ少々…なに誰《だれ》だい、誰《たれ》か門を叩くかい…誰《だれ》だい」
隅「はい、あの安田一角先生は此方《こちら》にいらっしゃいますか」
貞「安田と、安田先生ということを知って来たのは誰だい」
隅「はい私は麹屋の隅でございますが、一寸先生にお目に掛り度《た》いと存じまして、わざ/\雪の降る中を参りましたが、一寸|此処《こゝ》をお明け遊ばして下さいませんか」
貞「あ、少々控えていな」
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