の甚藏に引留められ、既に危《あやう》い処へ、浄禅寺ヶ淵へ落雷した音に驚き、甚藏が手を放したのを幸い、其の紛れに逃延びましたが、何分《なにぶん》にも初めて参った田舎道、勝手を心得ませんから、たゞ畑の中でも田の中でも、無茶苦茶に泥だらけになって逃げ出しまして、土手伝いでなだれを下《お》り、鼻を撮《つま》まれるも知れません二十七日の晩でございますが、透《すか》して見ると一軒茅葺屋根の棟《むね》が見えましたから、是は好《い》い塩梅だ、此処《こゝ》に人家があったと云うので、駈下りて覗くと、チラ/\焚火《たきび》の明《あかり》が見えます。
新「ヘエ、御免なさい/\、少し御免なさい、お願いでございます」
男「誰だか」
新「ヘイ、私《わたくし》は江戸の者でございますが、御当地へ参りまして、此の大雨に雷鳴《かみなり》で、誠に道も分りませんで難儀を致しますが、少しの間お置きなすって下さる訳には参りますまいか、雨の晴れます間でげすがナ」
男「ハア大雨に雷鳴で困るてえ、それだら明けて這入りなせい、明《あけ》る戸だに」
新「ヘエ左様でげすか、御免なさい、慌《あわ》てゝ居りますから戸が隙《す》いて居りま
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