を当《あて》る事だけネ教わって覚えたので、時々やって見た事がある、今も丸《たま》が込めて有る事を思い出したから、直《すぐ》に旦那の手箱の中《うち》から取出してね、思い切って遣《や》って見たんだけれども、好《い》い塩梅に近くで発《はな》しただけに狙いも狂わず行《や》って、お前に怪我さえ無ければ私はマア有難い斯《こ》んな嬉しい事は無いよ」
新「何しろ何《ど》うせ此の事が露顕せずにはいねえ、甚藏を撲殺《ぶっころ》して仕舞ってお前《めえ》と己と一緒に成っていられる訳のものじゃアねえから、今のうち身を隠してえものだ」
賤「アヽ私もね茲《こゝ》にいる気はさら/\無いから、形見分《かたみわけ》のお金も有るのだけれども、四十九日まで待ってはいられないから、少しは私の貯《たくわ》えも有るから、それを持って二人で直《すぐ》に逃げようじゃアないか」
新「ウム、少しも早く今宵《こよい》の内に」
というので、是から衣類や櫛《くし》笄《こうがい》貯えの金子までも一《ひ》ト風呂敷として跡を暗《くら》まし、明《あけ》近い頃に逐電して仕舞いました。また甚藏の死骸は絹川べりにありましたが、夜《よ》が明けて百姓が通り掛って騒ぎ、名主へも届けたが、甚藏は平素《ふだん》悪《にく》まれもの、何うか死んで呉れゝばいゝと思っていた処、甚藏が絹川べりで鉄砲で撃殺《うちころ》されているというのを村の人達が聞込んで、アヽ是からは安心だ、甚藏が死ねば村の者が助かるまでよと歓び、其の儘名主様へ届けて法蔵寺に葬ったが、投込み同様、生きている中《うち》の悪事の罰で、勿論|悪徒《わるもの》ですから誰の所業《しわざ》と詮議して呉れる者も有りません。新吉お賤の逃去りましたのは固《もと》より不義|淫奔《いたずら》をしていて名主様が没《なくな》ると、自分達は衣類や手廻りの小道具何や彼《か》やを盗んでいなく成ったに相違ない。彼《あれ》は素《もと》より浮気をしていた者の駈落だから左《さ》もあるべしと、是も尋ねる者もないので何事も有りませんが、名主惣右衞門の変死は誰《たれ》有って知る者は無い。肝腎の知っている甚藏が殺されましたから、惣右衞門は全く病死したのだと心得て居りますが、中には疑がっている者も有りまして、様々いうが、マア名主の跡目は忰《せがれ》惣次郎、誠に柔和温順の人でお父《とっ》さんは道楽のみを致しましたが、それには引きかえ惣次郎は堅くって内気ですから他《た》に出たことも無い人でございますが、或時村の友達に誘われまして水街道へ参って、麹屋《こうじや》という家《うち》で一猪口《ひとちょこ》やりました、其の時、酌に出た婦人が名をお隅《すみ》と申しまして、齢《とし》は廿歳《はたち》ですが誠に人柄の好《よ》い大人しやかの婦人でございます。
五十四
水街道あたりでは皆|枕附《まくらつき》といいまして、働き女がお客に身を任せるが多く有りますが、此のお隅は唯無事に勤めを致し、余程人柄の好《よ》い立振舞から物の言い様、裾捌《すそさばき》まで一点の申分のない女ですから、惣次郎は麹屋の亭主を呼んで、是は定めし出の宜しい者だろうと聞合せますと、元は谷出羽守《たにでわのかみ》様の御家来で、神崎定右衞門《かんざきさだえもん》という人の子で、お父様《とっさま》と一緒に浪人して此の水街道を通り、此の家に泊り合せると定右衞門が生憎《あいにく》病気で長く煩らって没《なく》なり、後《あと》で薬代《くすりしろ》や葬式料に困って居ります故、宿の主人《あるじ》が金を出して世話を致しましたから恩報じかた/″\此の家に奉公致し、外《ほか》に身寄親類もない心細い身の上でございますから、何分願います、外の女とは違いまして真面目に奉公を致して居りますもの、贔屓《ひいき》にして下さいというので、惣次郎の気に入りまして、度々《たび/\》遊びに来る、其の頃の名主と申しては中々幅の利いた者ですから、名主様の座敷へ出る時は、働き女でも芸妓《げいしゃ》でも、まア名主様に出たよなどと申して見得《みえ》にしたものでございます。惣次郎もお隅には多分の祝義を遣わし折節は反物《たんもの》などを持って来て遣る事も有るから、男振といい気立《きだて》といい柔和温順で親切な名主様と、お隅も大切に致し、何《ど》うも有難いと思い、或日の事、
隅「私は外に参る処もない身の上でございますから、何分御贔屓なすって下さい」
というので、惣次郎も近々《ちか/″\》来る中《うち》に、不図した縁で此のお隅と深くなりました事で、今迄堅い人が急に浮《うか》れ出すと是は又格別でございまして、此の頃は家を外《そと》に致す様な事が度々でございますから、お母様《っかさん》も心配する、弟御《おとうとご》もございますが、是はまだ九歳で、何も役にたつ訳でもございませぬから、お母
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