た、ついお前の身の上を思うばっかりに愚痴が出て、病人に小言を云って、病に障る様な事をして、兄《あに》さんが思い切りが悪いのだから、皆定まる約束と思って、もう何《なん》にも云いますまい、小言を云ったのは悪かった、堪忍して」
 與「誰エ小言云った、能くねえ事《こっ》た、貴方《あんた》正直だから悪《わり》い、此の大病人《たいびょうにん》に小言を云うってえ、此の馬鹿野郎め」
 三「何《なん》だ馬鹿野郎とは」
 與「けれども小言を云ったって、旦那様もお前様《めえさま》の身を案じてねえ、新吉さんと手が切れて家《うち》へ帰《けえ》れるようにしたいと思うから意見を云うので、悪く思わねえ様に、よう/\」
 三「蚊帳を持って来たから釣りましょう、恐ろしく蚊に喰われた、釣手があるかえ」
 累「釣手は売られないから掛って居ります」
 三「そうか」
 と漸《ようや》く二人で蚊帳を釣って病人の枕元を広くして、
 三「あのね、今帰り掛けで持合せが少ないが、三両|許《ばか》りあるから是を小遣に置いて行《ゆ》きましょう、私も諦らめてもう何も云いません、若《も》し小遣が無くなったら誰《たれ》か頼んで取りによこしなよう、大事にしなよう、蚊帳を釣ったから、もういゝ、何も、もう其様《そん》な事を云うなえ、サ、行《ゆ》きましょう/\」
 與「ヘエ参《めえ》りましょう、じゃアねえ、お累さん行《い》きますよ、旦那様が帰《けえ》るというから私《わし》も帰《けえ》るが、大事にしてお呉んなさえよ、よう、くよ/\思わなえが宜《え》え、エヽ何《ど》うも仕様がねえ、帰《けえ》りますよ」
 三「ぐず/\云わずに先へ出なよ、出なったら出なよ、先へ出なてえに」
 と兄が立ちに掛ると、利かない手を突いて漸《ようや》くに這出して、蚊帳を斯《こ》う捲《まく》ってお累が出まして、行《ゆ》きに掛る兄の裾《すそ》を押えたなり、声を振わして泣倒れまする。
 三「其様《そんな》にお前泣いたり何かすると毒だよ、さア蚊帳の中へ這入りな、坊が泣くよ、さア泣いているから這入んな」
 累「お兄様《あにいさま》只今まで重々の不孝を致しました、先立って済みませんが、迚《とて》も私は助かりません、何卒《どうぞ》御立腹でもございましょうがお母様《っかさま》に只《たっ》た一目お目に掛って、お詫をして死にとう存じますが、お母様にお出《いで》下さる様に貴方からお詫をなすって下さいませんか」
 三「もうそんな事をおいいでないよ、お母様もまた是非来たがって居るのだからお連れ申す様にしましょう、其様《そん》な事をいわずにくよ/\せずに、さア/\蚊帳の中へ這入って居なよ」
 與「大丈夫《でえじょうぶ》だよ、お母様ア己が連れて来るよ、其様な事を云うと悲しくって帰《けえ》れねえから這入ってお呉んなさえよ、ア、赤ん坊が泣くよ、憫然《かわいそう》に本当に泣けねえ」
 三「アヽ鼻血が出た、與助、男の鼻血だから仔細はあるまいけれども、盆凹《ぼんのくぼ》の毛を一本抜いて、ちり毛を抜くのは呪《まじねえ》だから、アヽ痛《いて》え、其様《そんな》に沢山抜く奴があるか、一掴《ひとつかみ》抜いて」
 與「沢山《たんと》抜けば沢山|験《き》くと思って」
 三「えゝ痛いワ、さあ/\行きますよ」
 と名残《なごり》惜《おし》いが、二人とも外へ出ると生憎《あいにく》気になる事ばかり。
 三「アヽ痛」
 與「何《ど》うかしましたかえ」
 三「下駄の鼻緒が切れた」
 與「横鼻緒が切れましたか、ヘエ」
 三「與助何うも気になるなア、お累の病気はとても助かるまいよ」
 與「ヘエ助かりませんか、憫然《かわいそう》にねえ、早くお母様アおよこし申す様にしましょうか」
 三「何しろ早く帰ろう」
 と三藏が帰ると、入違えて帰って来たのは深見新吉。酒の機嫌で作藏を連れてヒョロ/\踉《よろ》けながら帰って来て、
 新「オイ作藏、今夜行かなければ悪かろうなア」
 作「悪《わり》いって悪くねえって行かねば己叱られるだ、行って遣って下せえ、出掛《でがけ》に己《おら》ア肩|叩《たて》えてなア、作さん今夜新吉さんを連れて来ないと打敲《ぶったゝ》くよ、と云って斯《こ》う脊中ア打《ぶ》ったから、なに大丈夫《でえじょうぶ》だ、一杯《いっぺえ》飲んで日が暮れると来るから大丈夫だと云って、声掛けて来ただ」
 新「いつも行《ゆ》く度《たび》に向《むこう》で散財して、酒肴《さけさかな》を取って貰って、余《あんま》り気が利かねえ、些《ちっ》とは旨《うめ》え物でも買って行《い》こうと思うが、金がねえから仕方がねえ」
 作「金エなくったって、向でもって小遣も己《おれ》に呉れて、何うもハア新吉さんなら命までも入れ上げる積りだよ、と姉御《あねご》が云ってるから、行って逢ってお遣《や》りなせえよ」
 新「明日《あした》はまた大
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