功力《くりき》に依《よ》って累が成仏|得脱《とくだつ》したと云う、累が死んで後《のち》絶えず絹川の辺《ほとり》には鉦の音が聞えたと云う事でございますが、これは祐天和尚がカン/\/\/\叩いて居たのでございましょう。それから土手伝いで参ると、左りへ下りるダラ/\下り口があって、此処《こゝ》に用水があり、其の用水|辺《べり》にボサッカと云うものがあります。是は何《ど》う云う訳か、田舎ではボサッカと云って、樹《き》か草か分りません物が生えて何《なん》だかボサッカ/\致して居る。其所《そこ》は入合《いりあい》になって居る。丁度土手伝いにダラ/\下《お》りに掛ると、雨はポツリ/\降って来て、少したつとハラ/\/\と烈しく降出しそうな気色《けしき》でございます。すると遠くでゴロ/\と云う雷鳴で、ピカリ/\と時々|電光《いなびかり》が致します。
久「新吉さん/\」
新「えゝ」
久「怖いじゃアないか、雷様が鳴ってね」
新「ナニ先刻《さっき》聞いたには、土手を廻って下りさえすれば直《すぐ》に羽生村だと云うから、早く行って伯父さんに能《よ》く話をしてね」
久「行きさえすれば大丈夫、伯父さんに話をするから宜《い》いが、暗くって怖くって些《ちっ》とも歩けやしません」
新「サ此方《こっち》だよ」
久「はい」
と下りようとすると、土手の上からツル/\と滑って、お久が膝を突くと、
久「ア痛タヽヽ」
新「何《ど》うした」
久「新吉さん、今石の上か何かへ膝を突いて痛いから早く見ておくんなさいよ」
新「どう/″\、おゝ/\大層血が出る、何《ど》うしたんだ、何《なん》の上へ転んだ、石かえ」
と手を遣《や》ると草苅鎌。田舎では、草苅に小さい子や何かゞ秣《まぐさ》を苅りに出て、帰り掛《がけ》に草の中へ標《しるし》に鎌を突込《つっこ》んで置いて帰り、翌日来て、其処《そこ》から其の鎌を出して草を苅る事があるもので、大かた草苅が置いて行った鎌でございましょう。お久は其の上へ転んで、ズブリ膝の下へ鎌の先が這入ったから、夥《おびたゞ》しく血が流れる。
二十三
新「こりゃア、困ったものですね、今お待ち手拭で縛るから」
久「何《ど》うも痛くって耐《たま》らないこと」
新「痛いたって真暗《まっくら》で些《ちっ》とも分らない、まアお待ち、此の手拭で縛って上げるから又一つ斯《こ》う縛るから」
久「あゝ大きに痛みも去った様でございますよ」
新「我慢してお出でよ、私が負《おぶ》い度《た》いが、包を脊負《しょ》ってるから負《おぶ》う事が出来ないが、私の肩へ確《しっか》り攫《つか》まってお出でな」
と、びっこ引きながら、
久「あい有難う、新吉さん、私はまア本当に願いが届いて、お前さんと二人で斯《こ》う遣《や》って斯んな田舎へ逃げて来ましたが、是から世帯《しょたい》を持って夫婦|中能《なかよ》く暮せれば、是程嬉しい事はないけれども、お前さんは男振《おとこぶり》は好《よ》し、浮気者と云う事も知って居るから、ひょっとして外《ほか》の女と浮気をして、お前さんが私に愛想が尽きて見捨てられたら其の時は何《ど》うしようと思うと、今から苦労でなりませんわ」
新「何《なん》だね、見捨てるの見捨てないのと、昨夜《ゆうべ》初めて松戸へ泊ったばかりで、見捨てるも何も無いじゃアないか、訝《おか》しく疑るね」
久「いゝえ貴方は見捨てるよ、見捨てるような人だもの」
新「何《なん》でそんな、お前の伯父さんを便《たよ》って厄介になろうと云うのだから、決して見捨てる気遣《きづかい》はないわね、見捨てれば此方《こっち》が困るからね」
久「旨く云って、見捨てるよ」
新「何故そう思うんだね」
久「何故だって、新吉さん私は斯《こ》んな顔になったよ」
新「えゝ」
と新吉が見ると、お久の綺麗な顔の、眼の下にポツリと一つの腫物《しゅもつ》が出来たかと思うと、忽《たちま》ち腫れ上ってまるで死んだ豊志賀の通りの顔になり、膝に手を突いて居る所が、鼻を撮《つま》まれるも知れない真の闇に、顔ばかりあり/\と見えた時は、新吉は怖い三眛《ざんまい》、一生懸命無茶苦茶に鎌で打《ぶ》ちましたが、はずみとは云いながら、逃げに掛りましたお久の咽喉《のどぶえ》へ掛りましたから、
久「あっ」
と前へのめる途端に、研澄《とぎす》ました鎌で咽喉を斬られたことでございますから、お久は前へのめって、草を掴んで七転八倒の苦しみ、
久「うゝン恨めしい」
と云う一声《ひとこえ》で息は絶えました。新吉は鎌を持ったなり
新「南無阿弥陀仏/\/\」
と一生懸命に口の中《うち》で念仏を唱えまする途端に、ドウ/\と云う車軸を流すような大雨、ガラ/\/\/\/\と云う雷鳴|頻《しき》りに轟《とゞろ》き渡るから
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